あまりに有名な、福島第一原発所長の吉田昌郎氏らを取材して書き下ろしたノンフィクションです。事故発生から1年10ヶ月あまり経過し、いろいろなメディアで報道されている事故当時の現場状況ですが、これほど客観的かつ臨場感ある、わかりやすい書籍を見たことがありません。これは多数の直接取材をし、データを集めたジャーナリストである著者の功績でしょう。

その前に「東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと」菅直人著を読んでおいたので、そちらとの発生事実と情報のとらえ方の相違が明らかになりました。現場を混乱させたとしてトップが直接現地入りした行動様式が批判される論評を多いですが、その背景、原因が分ったような気がします。単刀直入にいえば、「失敗の本質」に集約される日本組織の欠点が表面に出てしまったということです。

<失敗の本質は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/20737667.html

この本で伝えたかったことを2つだけ上げるとすれば、1.今回の事故は本当にシリアス。紙一重で東日本が未来永劫人が住めない状況になる可能性が高かった、2.現場での適応能力の高さ、職業遂行の意識の高さです。

お涙頂戴目的の小説でないのですが、やはり涙が止まらなくなる箇所がいくつもあります。サブチャン(原発地下部分)点検中に、津波で殉職したプラントエンジニア。地震直後には母へ無事を伝える電話を入れていたそうです。不眠不休で暴走する原発を押さえようと24時間常駐する現場スタッフ。建屋爆発後には現場スタッフは後方へ待避するも、有名な福島フィフティーが残る話。吉田所長の断腸の決断で、決死隊が選ばれる話。自衛隊や消防隊が与えられた任務を(見えない危険に怯まず)当然のごとく遂行する話。これらに限らず、心を揺さぶられます。

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想像を超えるエネルギーを生み続ける原発、双葉町の標語をお借りすれば、「夢のエネルギー」ということになるのでしょう。そしていったん暴走状態に入れば、人の手では止めることができず地域を破滅させることになります。
一方、事故以来巻き起こった反原発運動の凄まじいエネルギーは当然ですが、火力発電で起こる地球温暖化などの環境問題について(京都議定書等)指摘する声が急になくなったことも、個人的には末恐ろしく感じます。ゴア元副大統領が書いた「不都合な真実」や、海水面上昇で国家が水没するフィジー等はどうなったのか。極端に流れるのではなく、(現実に、原発テクノロジーの先端国家であり、かつその失敗も経験している国として)代替エネルギーができあがるまで、資源小国の日本がなんとか生き残る方法を、冷静に知恵を絞らなければならないと思います。

追伸:恥ずかしながら、今日まで福島第一原発が、太平洋戦争末期の陸軍の航空基地で「磐城陸軍飛行場」として飛行技術の習得や特攻訓練が行われた跡地だったと、知りませんでした。終戦後、いったん塩田として使用された後、放置され原野になっていたところを(国有地が多い原野、かつ人口過疎地に所在していたので)昭和40年代に原発適地として候補になったそうです。

<磐城飛行場 特攻教育隊の基地は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/44976615.html

追伸2: 平成25年7月9日、吉田昌郎元所長が、東京都内の病院で食道がんのため亡くなりました。享年58歳。2011年12月に食道がんと診断されて所長を退任しその後、2012年7月には脳出血の緊急手術を受け療養生活を続けていました。東京電力によると、事故発生から退任までに吉田元所長が浴びた放射線量はおよそ70ミリシーベルトだそうです。慎んでご冥福をお祈り致します。