著者は過去、参議院議員選挙に自由民主党比例代表候補として立候補し、落選した経歴を持つ、フリーランスです。国民経済計算、国際収支などの国家の経済指標に財務分析の手法を応用し、各国の経済分析を行って、複数の著書があります。著者のスタンスはリフレ(上げ潮派)。非常に明快です。

個人的には、①国益=国民の安全を確保し豊かな生活を目指す、と定義したこと。、②そしてその目標の達成のためには、お金が必要、従って③GDPの成長が必要、とした三段論法が肝だと感じました。もう経済成長は必要ないという論も聞こえてきそうですが、成長しているからこそ他国から一目置かれ、貿易の相手国とさせていただき、円の価値を保っている点は大きいと思います。

経済政策面から見ると、論理の飛躍が見られるものの、納得出来る点が多いです。特に円高の現実肯定には賛同します。円相場は全世界の機関投資家の行動の結果であって、日本の政策当局がコントロール出来るものではありません。であれば現状を是として、それに合わせた政策をすべきであって、無理に為替レートを動かそうとしていることの費用対効果は薄いでしょう。それよりも現状の円高を奇貨として、海外からの輸入価格を押し下げるプラスの効果を享受し、生活の質を高めるべき。また円高である今こそ日本企業は、直接投資で積極的に攻めていくべきとの主張には納得します。

ただ、「規制緩和」「民営化」「生産性向上」「ムダの削減」「財政健全化」の政策はいずれもインフレ時の政策であって、デフレ期の政策ではないとの主張には、同意しかねました。氏いわく、これらの施策は消費の減少を招くためGDPを押し下げてしまうので効果は薄いと説きますが、マクロ経済学ではそうであっても、よりよい社会の実現にとって好ましいので、少し国民経済の面に寄って筆が滑ったのではないでしょうか。

ギリシャの現状分析は鋭く、一読に値します。簡単に言うとユーロ加入により、高関税による自国保護政策や通貨の自国安政策が取れないため、ギリシャ国内賃金の直接的な切り下げをしない限り、競争力を回復できないと断じていることです。将来の予断はできませんが、これに反論できる材料を見たことがないので、現実だろうと思います。政策をマクロ経済(国民経済計算)と数字で説明・検証するという基本姿勢は高く賛同いたしました。

上記をベースにすれば当然ですが、氏はTPP反対論者です。グローバル化を叫ぶ者ほど、グローバル化していない(もしくはその緒についたばかり)。真の意味でグローバル化している者は、そんな枠組みにとらわれず、そっとヒト・モノ・資本の移動をやっている、という訳です。主要国はすでに資本移動自由です。GDPのたった15%程度の輸出のために日米修好通商条約で奉納した関税自主権を、再度差し出すメリットは薄いと思います。国内の医療や法律サービスや会計、建設、流通等あらゆる国内産業が、ノーガードで(しかも今後もガードしないと宣言して)低賃金でかつルールの異なる諸外国と打ちあって勝ち、さらに外国に打って出る覚悟はまだないと思います。TPPに参加しなければグローバル化できないとか、国際社会に日本は乗り遅れてしまう!という主張をする方自身が果たして本当のグローバル人材かどうか、見極めなければなりません。

<三橋氏の主張のまとめ>
・経済成長させることが国益に最もかなう
・財政再建よりもデフレ不況からの脱却が先決
・消費者物価指数の適度な上昇が必要
・「規制緩和」「民営化」「生産性向上」「ムダの削減」「財政健全化」の政策はいずれもインフレ時の政策であって、デフレ期の政策ではない。すなわち消費の減少を招くためGDPを押し下げてしまう。
・円高は日本の国益。円高は海外からの輸入価格を押し下げるプラスの効果があり、逆に日本人の購買力を押し上げ、生活の質を高める。円安になると、輸出企業はともかく、中小企業の収益力が落ちて、内需の成長率が低下する
・景気が悪化する中で増税などしたら経済はさらに落ち込む。景気が悪い状態では、政府は積極的に財政出動を行うべきである。
・金利上昇は、デフレ脱却の兆候である。金利が上昇するまでは、国債発行と財政出動を続けるべきである。
 
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