福島県楢葉町は、放射性物質汚染対処特措法(通称、特措法)で「除染特別地域」に選定されており、国(環境省)が除染の実施主体になります(なお、いわき市は「汚染状況重点調査地域なので市が実施主体)。いわき市を始め、各地で除染を実施した際の仮置き場の場所の選定・確保ができない等の問題が生じています。それにもかかわらず楢葉町においては、地区ごとに10カ所以上の仮置き場を確保しているとのこと。どのような仕組みで確保可能となったのか、現地を訪れ、環境省担当者の方のお話を聞いて来ました。

最大のポイントはどのようにして仮置き場の場所の確保したかということ。いわき市においても、総論で地区内の仮置き場設置に賛成でも、具体的な場所選定において嫌悪施設である仮置き場を自分の近隣に置きたくないため、暗礁に乗り上げている地域が、無数にあります。

楢葉町でも同じ状況でしたが、最終的に地権者1,570名全員の同意を得て、各地区に最低1箇所ずつ仮置き場として3年間の借地ができたそうです。ヒアリング等から、私は以下の要因で成功したと理解しました。
・環境省任せにせず、楢葉町役場の職員が地権者向け説明会に同行し、最低3回は仮置き場の必要性を地権者それぞれに直接訴えかけたこと
・楢葉町の多くは避難指示解除準備区域であり、(日中の帰還はできても)いまだ居住できない状態(水道が使えない地区多数)
・楢葉町は米の作付け制限が行なわれており、実質的に田を使う道がない。従って田んぼを3年間、他用途に使うことに合理性がある。

特に3番目の要因は非常に大きいと思います。他の地域では、(農家の習性として米を作りたがるので)田以外の土地の候補地を探すしかありませんが、楢葉では広大な利用用途のない田んぼが、仮置き場候補ですから、地権者との交渉も比較的容易だったのではないかと推察します。

除染作業の進め方は以下のサイトが詳しいです。
http://josen.env.go.jp/area/flow/index.html
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除染作業の現場視察しました。まずは森林除染です。生活環境(住宅敷地境界)から20m以内の除染を行ないます。
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まず樹木等を残し、下草を草刈り機で刈り取ります。その後下草や枯れ葉等の堆積物を表土から数センチ程度、熊手等で集め、フレコンパックに収納します。すべて人力です。
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フレコンバックの中は、主に乾燥した枯れ葉等ですが、下草・枝葉等も混入しますので、嵩としていったんは相当な量になります(後で述べますが、最終的に圧縮梱包するので嵩は1/5になります)。
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表土をはぎ取った直後での測定値は、0.987マイクロシーベルト/hでした。除染前の山林が1.3マイクロシーベルトでしたので、約25%の改善効果が達成できたことになります。もっとも、現場の方のお話では、周辺の除染作業がすすめば、もう少し値が減少するとのことでした。
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住宅敷地そばの裏山20m以内の除染をしただけで、相当なフレコンバック数が発生します。作業途中だったにもかかわらず、ざっと数十袋はあったと思います。
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次に住宅地の除染現場に伺いました。住宅の除染は、足場の組み立て→屋根の除染(拭き取り)→樋の除染(拭き取り・高圧洗浄)→壁の除染(ブラッシング)→土間等の除染(ブラッシング・高圧洗浄)→庭の除草→堆積物の除去(1cm程度の表土除去)→表土の被膜、という手順を踏みます。通常6人チームで行ない、1軒あたり約4-6週間かかるそうです。

古民家の屋根の除染は命がけです。なぜならセメント瓦は屋根に上って踏むと割れる危険があり、また地震の影響で建物の躯体に損傷を受けている可能性があるからです。そのような場合、命綱をつけて屋根に上りますが、作業員にとって危険なことには変わりありません。
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屋根の除染は通常、人手による布での拭き取り作業になります。写真は拭き取り後の布です。試験的に拭き取りを行い、効果を検証しながら瓦1枚あたり何回拭き取るかのマニュアルを1軒ごとに作成し、本格作業に入るとのこと。拭き取り後の布は当然、そのままフレコンバッグ行きになります。
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庭の表土を1cm程度はぎ取ることから、住宅1軒あたりフレコンバックが約50袋も発生するケースが多いそうです。膨大な発生量に圧倒されました。水道が復旧していないことから住民は、現実的に帰還してないため(日中の一時帰宅は可能)、外見は普通ですが、ひとっこひとりいない町は奇妙です。外には除染作業車、作業員のみです。私の平の自宅から30km、時間にして40-50分の場所なのに、異空間の感じがします。
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仮置き場を見学しました。1袋ごとにタグ管理されたフレコンバッグが整然と積み上げられています。膨大な量があり、日本の国土全体を埋め尽くす勢いです(冗談ですが、それにしてもこの量のフレコンバッグを再度、掘り起こした上で中間貯蔵施設に移設することが現実にありうるのか疑義があります)。楢葉町にはこのような仮置き場が地区ごとに10カ所以上あります。
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フレコンバックの中には、圧縮された堆積物等が収納されていますので、フレコンバック上の空間量測定値は、2.14マイクロシーベルト/hと、非常に高い値を示しました。
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IMG_2140なお、フレコンバックの多くはMade in Indiaでした。なかにはMade in Chinaもあるようです。インド・中国では大量のフレコンバック製造にてんてこまいかもしれません。













フレコンバック内容物の減容化装置も見学しました(マスクしていますが、中央が私)。粉じんが飛び交っていますし、場所によっては高線量なので、マスク着用は必須です。
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可燃の堆積物をそのまま入れた状態のままでは、嵩が張ります。通常であれば、可燃物を焼却処理することにより、焼却前の嵩の1/10程度に減容化することができます(いわき市でもそうしています)。ただ、堆積物は放射性物質を含んでいるため、今回周辺住民から焼却の同意が得られず、代替策として、粉砕しチップ化した後に、チップを圧縮することにより、嵩を減らすことにしたそうです。この方法だと焼却前の嵩の1/5程度に減容化することができるそうです。この圧縮されたサイコロ上の正6面体のものを再度フレコンバックに入れ、仮置き場に置くことになります。なお、この装置の価格は1億5千万円とのこと。
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水質改善装置も併設されていました。一時期問題となった、高圧洗浄時の処理後の水です。現在は高圧洗浄する際には、処理水の流れを作ってきちんと集め、写真のような回収車で各地区から集めた上で、処理施設へ運搬し浄化しす。水質検査後に、随時河川へ放流しているそうです。個人的に高圧洗浄時の処理後の水など、事故発生当初は自然法流していたので、いまさら回収など徹底されていないと思っていましたが、現在では回収がルーティン化しているので、浄化処理が流れ作業の一部となっているようです。
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こちらが浄化装置。簡単にいうと、泥水を沈殿化させた上で、上澄み部分をゼオライト吸着させ、浄化するものです。発生汚泥は、発生した各地区の仮置き場へ戻して保管となります(自分の地区の水から発生した汚泥は、自分の地区の仮置き場へ置くという原則)。
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