安倍首相の新刊です。2006年に書かれた「美しい国へ」も読みましたが、その焼き直し版です。よく言えば、考えがブレていない、悪くいえば特に新たな考えは持ち込まれていません。安倍首相の、いわゆる保守思想が簡潔かつ、なぜそこに至ったかの原点が書かれていますので、「美しい国へ」をまだ読んでいない方には、ぜひ読んでほしいです。

氏の国家観、生まれた地域コミュニティの考え方には賛同するところが多いです。人類皆兄弟を掲げるいわゆる「地球市民」には違和感があります。現実には桃源郷に過ぎないし、仮に実現したとしても、その市民の安全や財産、あるいは人権を誰が担保するのか。その基礎的な単位が必要であり、それが国家です。また人間はひとりでは生きられないし、その人の両親、生まれた土地、育まれた地域コミュニティ、そしてそれらを取り巻いている文化・伝統・歴史から、個人を切り離すことはできないでしょう。それらを守るということは、偏狭なナショナリズムとはいえないし、この点は強く賛同したいと思います。

氏の年金の考え方は、今後も賦課方式を継続し、半分を保険料でまかない半分を国税投入するというもの。積み立て方式を認識してはいつつも、それに移行するという考えは持っていらっしゃらないようです。また保険料の自己負担を自助(資金はプールされ退職世代に使われてしまうので、自分のためでない)、国税投入を共助(国税は強制的に国家運営のために納付が求められるもので、みんなの年金のためではない)と捉えることに、違和感があります。なぜなら保険料の自己負担分はプールされ退職世代に使われてしまうので、自分のためではありませんし、国税は強制的に国家運営のために納付が求められるもので、みんなの年金のためではないと考えるからです。また介護保険について受給者の増加が当初予想をはるかに超えている認識を持ちつつも、今後受給者を減らしていきたいという希望を述べているだけなので、持続可能な制度設計かどうかをきちんと数字で検証しているのか、不安な部分もあります。

氏は現在の教育に関して相当憂慮されています。ゆとり教育の課題、教師・生徒のモラル低下等に真剣に取り組むようです。子どもがいない氏の家庭ですが、「家族、その素晴らしきもの」という家族観はまっとうです。また教育を原因とした格差の再生産は、現実として可能性が高いだけに悪平等にならないよう、既存の教育システムに切り込んで欲しいと思いました。

氏はインフレターゲット2%、日銀の直接国債引受に言及しています。突き詰めれば名目GDPの成長を目指す訳で、雑駁にいえば長期的にマイルドインフレによって、通貨安も達成し、経済成長を目指すと宣言している訳です。これには一歩間違えば・・・も有り得るわけで、微妙な舵取りが求められます。例えはどうかと思いますが、竹中平蔵元大蔵大臣のような、経済学のベースがあって政治のバランスを持ち得ている方に、安倍首相の右腕になってほしいと思ってやみません。
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今、アベノミクスが注目されています。正直、政治家が経済政策について全体的な方向性だけでなく、具体的な施策まで踏み込むことは、役不足というか役割が違うと思っているのですが、イエール大学の浜田宏一教授(こちらの方の著書も近いうち読んでみようと思っています)のような相談できる政策サポートスタッフが充実しているのでしょうか。もっと経産大臣なり金融大臣なりに権限を委譲され、ご自分ですべてを抱え込まないことを祈念しています。また日揮の社員のために陣頭指揮まで執られていらっしゃるので、あまりに業務が集中しすぎて健康を心配してしまいます。どうぞお体ご自愛下さい。