名古屋市立東部医療センターを訪問しました。こちらは地域医療連携として病院-診療所(病診連携)、病院-病院(病病連携)を強く意識された運営をされているところです。いわきの病院同市の連携(特に、共立病院と開業医との間の連携)があまりうまくいっていないので、連携をどのようにすれば良いのか把握したいというのが訪問の目的です。
東部医療センターの病院自体のスペックは、正直言って高くはありません。病床数(共立病院の2/3)もとりたてて多いわけでもなく、地域救急病院指定(2次)も今年になってやっと取得(共立病院は、もうひとつ上の3次救急まで取得済み)したところです。共立病院より唯一優位に立っている点は、物理的にも古いにもかかわらずDPCⅡ分類(医療機関のトップ10%を指定)されていることくらいです。。
東部医療センターの概要
許可病床数 498床(一般488床、感染症10床)
診療科数 25科
全職員数 常勤640名、非常勤124名
医師数 常勤88名、シニア14名、研修医16名
看護職員数 常勤406名、非常勤15名
診療実績 外来患者数 861人/日、入院患者数423人/日、平均在院日数13.5日、手術件数3,608件(平成24年度)
では、どうして地域医療連携がうまくいっているのか。民間病院出身の佐藤孝一病院長自らが説明して下さいました。就任当時の平成21年度は、大きな営業赤字を抱え、病院・診療所間で患者を紹介するなど短期的な収益悪化を伴う地域医療連携など考えられる状態ではなかったそうです。単なる大きなかかりつけ病院という位置づけです。
当時の病診連携の実績 平成15年 登録医師数400名、年間紹介患者数2,955名
理由は単純にいって、患者紹介は経営的には顧客の取り合いで、競争相手を利することだからです。
しかしながらこれは部分最適であって、医療システムの全体最適になっていませんでした。総合病院に患者が集中し混雑し、待ち時間が長くなり、ドクターが疲弊する一方、高度医療・緊急医療を必要としている患者に医療サービスがいきわたらないという悪循環だったわけです。同時に診療所としては、高度な検査機器を利用することができず、医療サービスの技術的限界がありました。
しかしながらこれは部分最適であって、医療システムの全体最適になっていませんでした。総合病院に患者が集中し混雑し、待ち時間が長くなり、ドクターが疲弊する一方、高度医療・緊急医療を必要としている患者に医療サービスがいきわたらないという悪循環だったわけです。同時に診療所としては、高度な検査機器を利用することができず、医療サービスの技術的限界がありました。
だからこそ病診連携し、高度な検査や診療が必要な患者を、かかりつけの診療所から病院に移し(紹介)、病院で治療を受けて安定状態に入った患者については、地域のの診療所へ戻す(逆紹介)したほうが、医療全体最適に資するというわけです。その指標となるのが、紹介率、逆紹介率です。
・紹介率アップの取組み
初回来院報告、退院時報告の徹底により、連携医からの信頼を得て、次の紹介へつながる
・逆紹介率アップへの取組み
紹介患者数が急上昇し、外来がパンク状態になり、症状が落ち着いている患者を積極的にかかりつけ医へ逆紹介する動機付けとなった
これらの施策により、平成20年 紹介率28%、逆紹介率20.2%→平成23年度 紹介率43%、逆紹介率63% を達成しました。平成24年の登録医師数622名、年間紹介患者数10,679名、逆紹介患者数17,210名です。
特筆すべきは、市及び市の病院局の指導で地域医療連携をやっているわけでなく、病院そのものの生き残りのために地域医療連携をやっていることです。これはいわき市と大きく異なっており、非常に重要な違いと捉えました。名古屋市も市立病院の経営問題(経常的な赤字)を抱えており、5年前は5つあった市立病院を順次、売却・統合・指定管理者制度へ移行、独立法人化することで、現在は2つに減少させています。東部医療センターはその2つのひとつで、やはり1年前までは経常的に数十億円の赤字を継続して発生させていました。
その対策として、3つの特徴的な施策例を、地域医療連携室の山田主幹に説明頂きました。山田様は、看護師として医療現場に立つ一方、 地域医療連携室のメンバーとして、診療所との提携、各種データの整理、資料作成、外部団体へのプレゼンテーション、現場ドクターとのリレーション等、幅広いバックオフィス業務を兼務されている方です。データ重視の分析と、現場の声を聞いた手法は、経営管理の王道だと感じました。
参考となった具体的な施策例を3つ挙げられました。
1.電話連絡
紹介患者の術後には、紹介して下さったかかりつけの開業医へ、手術完了の報告を入れる。
目的:かかりつけの医師は、紹介した患者がどのような治療を受けているか、いつも不安である。完了報告の電話を手術室から入れてあげることで、開業医の東部医療センターに帯する信頼度が向上する。安心できる。
2.開放型病床の活用
開放型病床を増やし、紹介して下さったかかりつけの開業医と共同して治療方針を決める
目的:かかりつけの医師が関与することで、患者は安心する。またかかりつけの医師は、見ず知らずの頭部医療センターの医師に自分の患者を紹介するので、当初は非常に不安。自分も東部医療センターの検査機器等を使って、検査や病状を確認できるため、紹介しやすくなる。
3.医師へつながる24時間ホットライン
宿直担当の医師の協力を得て、24時間いつでも医師へ電話連絡できる体制としました。これにより救急患者の受入や病状の変化等、対応できるようになり、顧客満足度が向上。
上記いずれも、現場医師・医療スタッフ・管理スタッフの協力がなければ実現不可能な施策です。病院経営の要諦は、彼らの職務に対する適切な動機付けをし、いかに生き生きと笑顔で、(労力としては大変なことを)やってもらうかだと思いました。よく経営においては、顧客満足(CS)とともに従業員満足(ES)が重要といわれますが、まさに同じです。
一方、当方の質疑応答の中で、課題も挙げられました。市立病院であることの限界です。すなわち人事制度や稟議システムが、名古屋市の制度の枠組みであるため、弾力的な報償制度や、医師・スタッフ採用ができないこと、そして投資するには(医療現場を知らない市当局に対して)多大な労力をかけて説明、資料作成しなければならないことです。また、事務職の定期異動があるのも課題だそうです。事務スタッフは、(医療スタッフと異なり)市全体の採用職員であるため、職員としても医療現場に就職したという意識より市役所に就職したという意識が強いとのこと。ある程度医療現場で経験を積んでも定期異動となってしまい、さまざまなノウハウを事務スタッフ個人に蓄積していくことが難しいのです。
当病院も全国的な医師不足の中、在籍医師のほとんどが、地元の名古屋市立大学医学部(1学部定員92名)出身者で占められているそうです(一部、名古屋大学医学部出身者)。やはり医師の地元志向は強いと感じました。手術の術式の共通化等、また先輩後輩のコミュニケーション、働く動機付け等を考えれば、ある程度地元出身大学出身者で構成するのが望ましいのでしょう。そのための施策として、研修医に対して愛情を持って育てることだと断言されていました。病院HPを見ると118ページも及ぶ初期臨床プログラムを用意し、いかに当病院で研修すれば一定の技術レベルに達するかアピールしています。
http://www.higashi.hosp.city.nagoya.jp/pdf/iryou/kensyuu/h24initial_clinical_training_program_20121130.pdf
また名前入りで所属医師を紹介しています(いただいたパンフレットにはすべの医師が顔写真付きで紹介されていました)http://www.higashi.hosp.city.nagoya.jp/outline/ishi.html
当病院を巣立って開業医となられた方は、病院内部の理解者として、病診連携事業の一番の提携先になってくれているそうです。病院関係者が笑顔で働ける職場の実現、これが研修医の応募や、OB医師の協力が得られる源泉ではないかと思いました。
(東部医療センターHPより転載)