吉田みきと ほぼ毎日ブログ

「死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし。 生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし。」 吉田松陰・高杉晋作語録   「金もいらぬ、名誉もいらぬ、命もいらぬ人は始末に困るが、そのような人でなければ天下の偉業は成し遂げられない。」 西郷隆盛・山岡鉄舟語録

くまモン

くまもんの秘密

前回、熊本県庁チームくまモン訪問をきっかけにくまモンの記事を書きました。
http://www.mikito.biz/archives/23244415.html
その後、くまモンの本が、同チームから出版されましたので、早速読みました。平成22年「くまもとサプライズ」キャラクターとして登場したくまモン。商品売上は1年で293億円、熊本のブランド価値向上への貢献は計り知れません。実は、ゆるキャラ・くまモンを「売るキャラ」に育て上げたのは、 PRもキャラクタービジネスも経験ゼロの、しがない地方公務員集団・チームくまモン。 くまモン失踪事件などの物語戦略、利用料フリーで経済を活性化させる楽市楽座戦略等々、公務員の常識を打ち破る自由な活動を展開し、自治体史上例のない成功を遂げた奇跡のプロジェクトの全貌です。

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3部構成になっており、第1部がくまモン関西戦略の秘密、第2部がくまモン地元戦略の秘密、そして第3部がくまモン・トップ戦略の秘密となっています。

第1部では、当時どのような戦略・戦術でくまモンを売り出そうとしていたか、良い意味で暴露しています。ここまで暴露しても他の追随を許さないという自信ともとれます。これからの売りだそうとしているゆるキャラ担当者は必見、というかここに書いて戦術らの実行は、成功の必要条件です(十分条件ではありません)。これらの戦術を実行せずして成功しようというのは、思い上がり・お気楽な勘違いであることを認識させられました。

第2部では、地元熊本県でどうくまモンが活動したかが書かれています。1年目はまさにどさ回り、幼稚園や小学校の運動会に(知名度がまったくない状況で)参加し続けたそうです。

第3部で、蒲島知事自ら筆をとっています。
http://www.mikito.biz/archives/23235952.html
印象的だったのは、「皿を割れ」という、知事が職員を鼓舞する言葉です。皿を洗わない者は皿を割ることもない。割ってもいいからどんどん皿を洗え。どんどん行動せよ、そういう意味の言葉だそうです。よくまちづくりの成功のキーとして、「よそもの・わかもの・ばかもの」といわれますが、くまモンの成功もまさにこれにあてはまります。
よそもの:小山薫堂・水野学氏など県外の有識者が、外部視点で熊本を見つめました。
わかもの:チームくまモンの県庁職員(著者)。キャラクタービジネス経験ゼロながら、柔軟な発想と行動力がありました。
ばかもの:蒲島知事。トップが常識や前例にとらわれない行動しました。チームくまモンへの鼓舞だけでなく、くまモンが失踪したという架空話を知事が公表したり、吉本新喜劇で知事がコケルするのは、政治的にかなりの冒険だったと思います。

いわき市もオールスター開催と同時に、フラじろう(フラおじさん)というゆるキャラを売り出しています。ぜひ先人達の知恵をうまく使って成功することを、祈念してやみません。

くまモン

くまモンは、熊本が推進するゆるキャラで、ゆるキャラグランプリ2011王者に輝いています。九州新幹線の大坂までの全線開通を機に、県庁が2010年から、熊本産品を売り込むために「くまもとサプライズ」キャンペーンを行ないました。熊本県庁にお伺いし、この仕掛人である熊本県庁 ブランド推進課の酒瀬川様にお話を伺いました。
http://kumamon-official.jp/
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実はこのキャラが登場できたのは、ひょんな事からでした。上記キャンペーンのためにロゴ作成を依頼したデザイナーが、びっくりマーク「!」ロゴ作成のついでに、同キャラを製作し提案したものだそうです。今では「!」ロゴより、くまモンのほうが知名度があります。
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県がブランド構築に投資している金額は、約2億円/年(2012年ベース)だそうです。半分はくまモンの出張費用、半分はブランド構築のための、媒体費等とのこと。全国へのPR効果試算は10億円を越えるとのことであり、十分な効果を得ています。2013年の今では、たくさんの派生商品が誕生しています。

2010年から始まったキャラクターですが、熊本ではとても人気があり、街のいたるところで見かけます。例を挙げれば、役所、税務署、土産物屋、ラーメン店、居酒屋、レストラン、病院等等です。シンプルなデザインですが、どこかとぼけていて、癒やし系です。
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<当時の現状分析>
・熊本県の県民所得は、九州平均よりも低い(観光入り込み客数低調)
・知名度が、福岡、鹿児島に圧倒的に劣っている。
・九州新幹線の大坂開業(2010年)、大阪・鹿児島間直通のみがとりざたされ、熊本がパッシングされている

<当時の役割分担>
・県出身で、テレビ東京等で活躍中の放送作家、映画「おくりびと」の脚本家である、小山薫堂氏が、全体的な企画立案
・小山氏は、友人で数々のデザイン賞を受賞しているデザイナーの水野学氏に、びっくりマーク「!」ロゴの制作を依頼(水野氏はおまけとして、くまモンを提案した)
・発注元である県は、知事主導のもと、小山氏の企画立案を受入れて実施

<当時のターゲットの絞り込み>
・全国PRは能力・資金的に不足するので、大阪圏にターゲットを絞る
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<具体的なイベント施策>
第1段階 2010年
・くまモンの、大阪まちなか神出鬼没大作戦(ステルスマーケティング)
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・一切のメッセージを持たせず都市伝説化
・口コミの話題化のために、ツイッター、フェイスブック、ブログ等のSNSの利用
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・JR中吊り広告にユニークなキャッチコピー32種類
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・くまモン名刺配布作戦10,000枚
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・くまモン失踪の知事の緊急記者会見

第2段階 2011年
・ゆるキャラグランプリ受賞
・商標権フリーにし、商業利用を基本的に認める(関連商品売り上げ25億円)
・くまモンが正式に県の営業部長に就任
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・大手菓子販売会社(味覚糖のぷっちょ)、飲料メーカー(カゴメの野菜生活デコポンミックス)と提携し、ナショナルブランドの商品にくまモンを使わせるにより、逆にキャラの認知度向上につなげる(メーカにとっては売上増になるので、Win-Winの関係)
・くまモン体操をYouTube配信
http://www.youtube.com/watch?v=sBBZop5j6D0
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・キャラデザイン・利用方法をまとめた利用の手引きという冊子を作成、利用者に義務づけ
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第3段階 2012年
・キャラ許諾件数が8000件を超え、オール熊本県民に愛されるキャラに育つ
・くまモン隊のイベント出動回数が、年間1700-1800回を超える
・商業利用だけでなく、幼稚園、プロスポーツ、サンリオ等にも出かける
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・カゴメと提携により、カゴメCMに出演
・企業コラボ商品の拡大(エースコック、チロルチョコ)
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・くまモン関連出版
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・関西だけなく、全国へ活動拡大
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<成功要因>
くまモンが成功した理由の第1は、熊本出身で、かつ現在、東京で活躍している脚本家を起用し、その人脈を生かしたこと、そして地元のために継続して幅広い良い提案を出してもらったこと、第2は、発注者がその脚本家に自由度を持たせ、提案された奇抜な提案を受入れたことにあると思います。

マーケティングのプロに企画そのものを丸投げし、それを官が実行するという形は、しばしばみられますが、他のキャラとくまモンとの違いは、プロデューサーの出身と、知事・県庁の資質にあると思います。前者ですが、総合プロデューサーの小山氏は、熊本県出身で熊本が発展できないことに対して忸怩たる思いを持つつつ、テレビ東京等で脚本を担当していた売れっ子プロデューサーです。すなわち県庁と向く方向性が同じで、ビジネスベースだけでなくパッションが同期したから、そして県内の実情をよく知り得ていたからこそ、地に足が着いた実のある企画提案が出てきました。
また後者については、小山氏の提案をよく聞き入れ、実行可能なように予算取りや職員配置を行なったことです。簡単なようですが、サプライズ(今回のくまモンのコンセプト)を伴うような支出は、庁内・議会の承認を取り付けることは容易ではありません。またプロの広告を経験したことがない、県職員をSNS担当に貼り付け、またくまモン隊へ同行させることも簡単ではありません(今回説明いただいた際にパワーポイント資料を頂きましたが、県庁職員が作ったとは思えない、ユニークかつデザイン性に優れたものでした!)。またプロデューサーの小山を単発起用でなく、継続してアドバイザーとして今でも関与してもらっていることが、全体のスケジュールやくまモンの世界観の維持に貢献しています。

特筆すべきは、何と言っても知事の英断に尽きます。こういった企画に理解を示し、一流のジョークである、くまモン失踪についての記者会見を大まじめで自らが出演するのは肝が据わっています!23717知事については著書書評に書きましたので、ご覧下さい。
http://www.mikito.biz/archives/23235952.html

なお、忘れてはならないのは、全国で展開されている、いわゆる「ゆるキャラ」2000種類近くあるということです。それぞれ、自治体もしくは地域の愛すべきキャラとして全力で応援されているはずですが、結果、埋没してしまっているものがほとんどです。くまモンはその、死屍累々たる屍の上の頂点に立つキャラのひとつなんです。

いわきでも、「たいらもん」「ジャンガラー」「フラおじさん」等、キャラ乱立の状態にあります。どれも応援される方のの思い入れを感じることができ、個人的に大好きです。しかし経営戦略の視点からあえて苦言を呈すれば、どれもキャラを作る目的、すなわち単にキャラが観光マーケットに認知されればよいのか(くまモンのケースはこれ、結果的に成功したので拡散していった)、キャラが載った商品を売りたいのか、キャラに観光営業部長の役割を担わせて地域の入り込み客数を増やしたいのか、どのセグメントをターゲットにしているのか、が明確に見えてきていません。また(消費者目線として)全体を俯瞰した継続的な取組みを感じることが少ないです。したがって、顧客が受け取るメッセージが希薄になってしまい、目的を達成することが難しくなってしまいます。そうなると残念ながら結果的にキャラの淘汰が進むことになってしまいます。第一に制作目的と、ターゲット層(単に首都圏からの観光客というだけでは広すぎる)を絞りこむ必要があります。

今回の考察を踏まえて練った、福島県の立場での私案です。
・目的:観光入り込み客数増加(市外からのツーリスト人数)
・ターゲット層:首都圏在住で、親40歳前後、小学生の子どもの3人家族、年収600-900万円程度の家族旅行が年1-3回程度できるプチ富裕層
・コンセプト:「震災、津波、原発からの復活」
・官の役割:県トップがコンセプトを理解し、自ら動くこと。フクシマのために身を粉にして知恵を出してくれる、パッションが同期できる総合プロデューサーを探し出すこと。
・総合プロデューサー:ターゲット層の好みを熟知し、かつ目的を実現するための手段、ツールを身につけていること、そしてそのための人的ネットワークを持っていること、そしてフクシマの足下を知っている地元出身者であること。
・事前調査:上記ターゲットに対し、福島県の認知度、イメージ、食・観光に対する意識を事前調査し、その後の施策のベースとする
・県:トップが自ら足を使うこと。新しい提案に対し、過去の経験での先入観を持たず、何が目的達成のために最短なルートか考え、迅速に実行できること。
・予算:(原発のスティグマを考えれば)熊本の倍額は必要。
・他県との差別化:津波、原発事故、風評被害があることは事実として受け止め、そこからの再生(再生エネルギーの取組みを含めて)をダイレクトに露出させることによるサプライズ、他県からの声援・透明化・ネガティブインパクトのすべてを狙う。
・具体的な施策:失敗先例を踏まえた上で、熊本の成功先例を参考に、フクシマ版にアレンジして実施。当初は総合プロデューサーに全般指揮を委任しつつ、県職員担当者がスキルを吸収し、自ら企画できるまで育成していく
・担当者育成:SNSは今後さらに重要性が増すので、複数のプロパーの県職員をSNS及びマーケティング調整総合担当として、漸次養成していく。
・月単位で戦術を見直し、年単位で戦略の総括を行なう。

街中で本当にたくさんの、くまモン看板、くまモングッズ、くまモン商品等を見かけました。県庁一階には、くまモンの銅像がありました。
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熊本県のゆるキャラとして、定番化しています。
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既存のゆるキャラを包含してしまっています。下記は以前の米粉応援キャラクターであった花咲かじいさんを、くまモンが完全に取り込んでしまった例です。
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レストランのおしぼりにも、くまモンが!事前許可は必要なものの、著作権対価フリーなことが普及を強く後押ししています。それはそれで良いのですが、露出がちょっと多すぎると感じます。くまモンが人気となり、露出度が高くなればなるほど、飽きられるペースが速まることも事実です。県としては、末永く県民に愛されるキャラクターに育つことを目指しているとのこと。どのように着地点を持って行くのか注目です。このままいくとブレイクはするのでしょうが、一般化しすぎて、キャラの貴重性がなくなり、いわゆる飽きられるのも早いのではないかと危惧しています(余計な老婆心でしょうか・・・)。

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吉田みきと プロフィール

ふるさとの福島県いわき市で、市議会議員として活動しています。いわき市は、震災後、複層的な問題が山積しています。公認会計士・一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 認定 アンガーマネジメントファリシテーターとしてのキャリアを生かし、フレッシュな視点で問題点を洗い出し、解決策を提案していきます。

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