『マネーロンダリング』『永遠の旅行者』をはじめたくさんの経済小説を出されている、橘玲氏。徹底したリアリスト、資本主義論者です。オカネをベースにした小説や、ハウツー本を出されている方が、中国という国を分析したのは珍しいと思います。20年前から、(当時発展途上だった)中国への訪問を続け、観光地という観光地は、すべて踏破したそうです。そこで感じるようになったのは、地方においてゴーストタウンが発生し、それはある地方限定ではなく、中国全土で同じような事象が起きていること。それが写真付で紹介されています。

著者の特徴は、それをオカネの面から解き明かしていることです。なぜそんなことが起きているのか、簡単な流れは、こんな感じ。
①地方政府は、農民から廉価で土地の使用権を買収
②大規模なマンション開発・販売
③大規模な開発利益で、高速道路・高速鉄道等のインフラ整備に投資
④不動産価格の高騰
⑤設定家賃が高くなりすぎ、誰も入居しないマンションが林立したまま残る

ポイントは、土地の所有権は国にありますが、その管理・処分は地方政府に任されていることです。①~④までなら、都市住民にとってはインフラ整備が進み便利になる。開発業者は仕事が増える。地方政府にはオカネが入ってくると、良いことづくめ。だからこそ、中国全土でこのような開発が行われました。不動産価格が上昇を続ける限り、このような投資に群がるのは当然のこと。実際には住まなくても投資目的での高騰価格でのマンション購入が続くわけです。

問題は、マンションを買った個人の借金です。これまでは、高騰するマンション価格に支えられて担保価値があったわけですが、価格が下落に転じると、返済ができなくなり、金融機関からみると貸し倒れが発生してしまう。いまのところそれが顕在化していないのは、中国の4大銀行が実質的に国有であり、貸倒れとして分類していないだけでしょう。銀行への資金が続く限り、このような不良債権は隠蔽され続けるでしょう。しかし、どこかで資金が止まったり、不良債権の額の開示がリークされるようなことになれば、一気に、資金供給が止まり、経済が収縮する可能性があります。果たしてこのようなチキンレースがどこまで続くのでしょうか。

著者は、すべての原因は、中国の人口があまりに大きいからだと結論づけています。それゆえに、民主化も困難だと予想しています。そうして「平等な独裁国家」が作られていくとしていますが、実際、この1年でそれが現実化しています。著者の慧眼には驚くばかりです。

<幸福の「資本」論 橘玲著は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/50430112.html
2020-07-05 08.57.17-1