著者の藤井厳喜氏は、ハーバード大学政治学部大学院卒の政治学者、評論家です。かつては大学で教えていたこともあるようですが、現在は、YouTubeや、有料記事配信等で活動されておられる方。保守の立場ですが、必ずしも政権寄りは発言をされているわけではありません。

本書は、太平洋戦争(大東亜戦争)を望んだ者は誰なのか、第31代アメリカ大統領ハーバート・フーバー(任期1929~33)の著作をもとに、藤井厳喜氏オリジナルな見立てを展開しています。まずフーバー大統領の回顧録とは、第二次世界大戦の過程を詳細に検証した「裏切られた自由(Freedom Betrayd)」です。

まず、フーバー大統領ですが、一般的な歴史観は、1929年の世界大恐慌時に有効な経済政策を打ち出せなかった無能な大統領というもの。しかし実際は、第28代大統領ウッドロウ・ウィルソンの下で食糧庁長官、第29代大統領ウォレン・ハーディングと第30代大統領カルビン・クーリッジの下で商務長官を務めた、極めて有能な方だったようです。

結論からいうと、大東亜戦争はルーズベルトによって日本が巻き込まれた戦争だったというもの。昭和初期に日本が軍国主義国家になったことは事実でしょうが、軍国主義だからアメリカに戦争を仕掛けたというわけではないんですね。戦後、マッカーサーも「日本の戦争は自衛戦争であった」と認めているし、フーバーがマッカーサーに「太平洋戦争は日本が始めた戦争ではない。ルーズベルトが始めた戦争であり、ルーズベルトが日本を追い詰めてやった戦争である」とマッカーサーに言うと、「その通りだ。」と認めたそうです。

あの戦争は、「ファシズム・軍国主義 対 デモクラシーの戦い」ではなく「後進資本主義国家である日独伊が、先進資本主義国家である英米の覇権に挑んだ戦い」だった。ヤルタ協定で、ルーズベルト(とチャーチル)がスターリンを連合軍側に引き入れたことが、ソ連が共産主義を世界中に広める手助けになってしまった。スターリンとヒトラー同士を戦わせておけばよかった。

第二次世界大戦の本当の勝者はソ連でありスターリンであり、次に儲かったのは毛沢東の共産党だった。イギリスは戦勝国にはなっても植民地など失ったものが大きい。アメリカは中国本土へ侵入し領土獲得を望んでいたようだが、それもスターリンや毛沢東に阻まれ、実現しなかった。この戦争が無かったら世界地図は全く異なっていた。

それにしても、もととなったフーバー大統領の著作「Freedom Betrayd」が、2011年まで出版されなかったのが不思議です。その邦訳「裏切られた自由」は2017年です。それは本の内容が、ルーズベルト批判、アメリカの第二次世界大戦への参戦への批判だったから。都合が悪かったので、これまで戦後50年以上の放置されてきました。ここにきていろいろな外交文書・秘密文書等が公開されてきていて、出版できる状況になったのでしょうか。

2020-04-08 12.01.55-1