ちょっと前に話題になっていた「China 2049」秘密裏に遂行される世界覇権100年戦略(本題は、The Hundred-Year Marathon)を読みました。著者のマイケル・ピルズベリー氏は、中国専門家としてだけでなく、30年にわたって米国政府の対中政策に深く関わってきた人物です。

なんとその方が、反省を込めて、「米国は中国の国家戦略の根底にある意図を見抜くことができず、だまされ続けてきた」と告白しています。つまりこれまでの対中政策は、中国の欺きにより、完全に間違っていたといっているわけです。

実は、これまで中国に対する見方は、脆弱な中国を助けてやれば、中国はやがて民主的で平和な大国になる。さらには、大国となっても地域支配や世界支配などを目論んでいないというものでした。いわゆるパンダハガーの声が大勢だった。これに日本も含まれます。しかしこれは、中国の100年マラソンという策略で、その目的は「強中国夢」、すなわち中国が世界の真ん中に来る、中華思想です。その実現のために、野心を隠し力を蓄える戦術をとり、西洋諸国から資金援助、技術移転等をもらってきた。具体的には、100年計画として以下の9つの策を実行してきました。

1. 敵の自己満足を引き出して、警戒態勢をとらせない
2. 敵の助言者をうまく利用する
3. 勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する
4. 戦略的目的のために敵の考えや技術を盗む
5. 長期的な競争に勝つ上で、軍事力は決定的な要因ではない
6. 覇権国はその支配的な地位を維持するためなら、極端で無謀な行動さえとりかねない
7. 勢を見失わない
8. 自国とライバルの相対的な力を測る尺度を確立し、利用する
9. 常に警戒し、他国に包囲されたり、騙されないようにする

これらのほとんどは、中国の古典、特に春秋戦国時代等で用いられてきた兵法に原点があります。

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気づいたからには行動を変えなくてはなりません。一番やっていけないのが、中国を過大評価し、中国に自ら過大評価させること。プロイセンの将軍、軍事戦略家クラウゼヴィッツになったつもりで、兵法には兵法で対抗する。氏は、段階を踏んで対策をしていくべきだと言います。

1. 問題を認識する
2. 己の才能を知る
3. 競争力を測定する
4. 競争戦略を考え出す
5. 国内で共通性を見いだす
6. 国家の縦の協力体制を造りあげる
7. 政治的反体制派を守る
8.対米競争的行為に立ち向かう
9.汚染者を突き止め、恥じ入らせる
10. 汚職と検閲を暴露する
11. 民主化寄りの改革をサポートする
12. 中国のタカ派と改革派(修正主義者)の議論を監視し支配する

香港民主化運動での運動家への支援、ウイグル自治区への監視・弾圧の暴露等、これらの対策の一面です。その場のムードで行動するのではなく、しっかりとした戦略に基づいて戦術を遂行していくことが大事です。戦略の失敗は、戦術で取り戻せない。