あなたの家が「半額以下」になる。地方はすでに大暴落と著者はいいます。その一例として挙げているのが、上越のスキー用リゾートマンションです。最盛期には一室2000万円もの値段で取引されたこともありましたが、現在は10万円でも取引が成立しないそうです。理由は、必ず賦課される固定資産税と、高額な維持管理費、将来の莫大な修繕費用負担が買主にのしかかってくるからです。

これは、果たして地方のリゾートマンション特有の問題でしょうか。確かにバブル期からの暴落率という観点からは、リゾマンはひとつの例でしょう。しかし、10万円でも利用価値がないというのは、地方の不動産においては、かなり当てはまるのではないか。地方の駅前商店街のテナント、ニュータウンの一戸建てなど、高いといわれているものであっても、本当に第三者に貸して賃料がとれなければ、利用価値は著しく低いといわざるをえません。

不動産鑑定では、不動産の価値を(費用性:その物をつくるにあたり、どれほどの費用がかかったか)、市場性(それがどれほどの値段で市場で取引される物か)、収益性:それを利用することによって、どれほどの収益が得られるか)の3面性で分析します。それによれば、費用性○、市場性?、収益性×といえそうです。不動産価値を将来その不動産が生み出すものと考えれば、収益性が最も重要視されるはずです。

では、日本のマクロ的な意味において将来の収益性はどうか。現在、2018年末ですが、1年ちょっと先には、東京オリパラが控えています。これに合わせて、全国に競技施設建設、改修需要が発生し、同時に選手村や交通インフラ整備もなされる予定です。これ自体は、需要を喚起し、日本経済全体に資することは間違いありません(借金も増えますが)。

著者が主張するのは、2020年に五輪が開催されることではなく、2020年に五輪が「終わる」こと。すなわち、その後の東京には華やかな未来を予想できるイベントはありません(2025年大阪万博はありますが)。一例をあげると、2025年、団塊世代がすべて後期高齢者になり、東京都の人口は減少し始めるというもの。これまで江戸時代から東京の人口は増加を続け、減少を経験したことはありません。東京は歴史上、はじめての人口減少を迎えるのです。

それにもかかわらず、東京(だけでなく日本全国)には、高度成長期と変わらずに毎年多くの新築住宅・共同住宅が供給され続けていることです。これが意味することは、将来、あり余る住宅が発生すること。単に空いているだけなら、賃貸市場原理を通じて家賃の減少し、若い世代を含めて住居費負担地小さくなるという点ではよいのですが、すべて物件に管理が行き届かなくなることが問題なのです。雑草が生い茂る、不法入居者が発生する、異臭がする、スラム化する、ゴミ屋敷になる・・・廃墟化しないまでも、「タダ」でも貰い手がない不動産や土地が多数存在するのは、日本経済全体としても、また個人資産の減少という点でもよくないことは明らかです。

では、どうしたらよいのか?著者は、東京圏の駅チカ物件のみが投資対象として生き残るという見方をしています。個人的には、著者の見方は最大公約数的なものであり、投資機会はどんなタイミングでもどんな市場でも存在すると思います。それが見抜けるかどうかは、それぞれの投資家脳、目利き次第だからです。

2018-12-13 08.12.51

著者が、ある意味、不動産業界にどっぷり浸かっていないので、不動産業界を明るくするための対する提言が、興味深い。

・レインズの(不動産流通標準情報システム)開放
現在は、不動産業者のみがアクセスできる、不動産の募集・成約情報サイト。これを一般の方が自由に閲覧できるようになると、マーケットの透明性向上、不動産の個別性を排した市場分析が可能になる。

・両手・囲い込みの禁止
現在は、不動産仲介手数料は売主・買主両方から得ることができる。本来、双方代理として民法上は禁止されていることだが、業界慣行として存在している。これを禁止することで、売主側の代理人、買主側の代理人がそれぞれプロフェッショナルの仕事をするようなインセンティブになる。

・手数料の自由化
現在は、不動産仲介手数料は成約価格3%+6万円。法律上はこれが上限と定められているが、業界慣行として定着。本来、業務範囲・サービス範囲は狭いが成約価格の1%で受託する業者が存在してもよいのではないか。それが買主のためでもあり、不動産の流通速度を早め、不動産マーケットの透明化につながるのではないか。

これらの論点は、これまでも議論されてきましたが、それぞれの思惑やこれまでの慣行等で、変わってこなかったエリアです。少なくとも過去、現在においては、それが変わる世論、気配はありません。しかし、仮に日本の不動産価格が暴落するという局面になったら、思惑や慣行などといっていられない状態になるはずです。そのときこそ、日本の不動産取引慣行が変わる潮目でしょう。