2018年10月27日の報道によれば、福島県沖に設置した浮体式洋上風力発電施設3基のうち、世界最大級の直径167mの風車を持つ1基が、採算が見込めないため撤去される方向であることが、報じられました。当初は、実証研究として商用化を探っていました。将来的には大規模な洋上ウィンドファーム構想もありました。しかし残念ながら、機器の不具合で設備利用率が低い状態が続いていたそうです。

1. ふくしま未来(2013.11~)
1基目の2MWの固定ギア式浮体式洋上風力発電設備。発電設備は日立製作所製。浮体は三井造船製。

2. ふくしま浜風(2017.2~)
5MWの固定ギア式浮体式洋上風力発電設備。発電設備は日立製作所製。浮体はジャパンマリンユナイテッドの堺工場製。

3. ふくしま新風(2015.12~、今回発表の撤去予定対象物)
7MWの油圧ドライブ式浮体式洋上風力発電設備。この規模の洋上風力発電が浮体式で設置されるのは世界初。製造は三菱重工製、浮体は長崎造船所、タワーは神戸造船所、ナセルは横浜製作所、ブレードはドイツから調達、これらを全て小名浜の藤原埠頭で組立てが行われました。
http://www.mikito.biz/archives/41381091.html

4. ふくしま絆(2013~)66kV浮体式洋上変電所。
安定性が求められる発電所が洋上に設置されるのは、世界初。変電所は日立製作所製、浮体はジャパンマリンユナイテッド製。

福島県は2011年3月の東日本大震災・福島第一原発事故後、積極的に再生可能エネルギーの導入を進めていましたが、これに水をさす形になってしまいました。これまで発電3基+洋上変電所で合計585億円の国費が投入されており、今回撤去予定対象のふくしま新風だけでも152億円がかかっているそうです。そして撤去費用の概算見積もりは、建設費の1割程度とのこと。

安定が求められる発電・変電施設を、波風が大きく発生する太平洋の大海原に浮かんだまま設置するには、これまでにない新技術の開発と、果たして建設・運用コストが発電に見合うものかどうかが、プロジェクト開始当初から注目されていました。結果的には、風車の回転力を発電機に伝える変速機などで問題が続発したそうで、根本的な解決にいたらなかったようです。ふくしま新風の直近1年間(2016.7-2016.6)の設備稼働率は、たった3.7%(事業化の目安は30%だそうです)とのことで、これが廃止を決断する大きな要因になったと思われます。

残りの、「ふくしま未来(2MW)」「ふくしま浜風(5MW)」の実証試験は当初は2018年度に終了する予定でしたが、現在のところは当面、期間を延長して商用化の可能性を探る方針だそうです。

経産省が委託した専門家による総括委員会は、2018年8月に報告書を提出し、ふくしま新風(7MW)については、「技術的課題があり、商用運転の実現は困難」「早急に発電を停止し、撤去の準備を進めるべき」と指摘しました。報告書によると、売電収入100を得るために、運用支出が183もかかっており、収入のために1.8倍もの費用がかかっている状態です。しかもこの費用は、運用コストがメインで、設置コスト152億円は含まれていません。確かにオカネの観点だけでいえば、投資効果は薄いといわざるをえません。

<福島沖での浮体式洋上風力発電システム実証研究事業総括委員会 報告書2018.8は、コチラ>
http://ur0.link/MXZq

陸上は風力発電や太陽光発電の適地が少なくなっており、周囲を海に囲まれた日本にとって、浮体式洋上風力発電は、有望な再生可能エネルギーです。しかし陸上に比べて洋上は、そもそもその安全性・信頼性・経済性の観点が疑問視されてきました。今回の実証実験で図らずも、ふくしま新風(7MW)については、信頼性・経済性の課題が大きすぎるとの結論にいたりました。

確かに152億円も投じて、結局、商用化にいたらなかったことだけを捉えて、オカネのムダと断じることができるかもしれません。しかし、トーマス・エジソンは、電球を発明するまで一万回失敗しました。そのことをインタビュアーに「一万回も失敗したそうですが、苦労しましたね」と問われたとき、エジソンは、「失敗ではない。うまくいかない方法を一万通り発見しただけだ」と答えたそうです。
そうなのです。ふくしま新風(7MW)ついて、うまくいかない方法を発見した。この知見を今後にどういかすかが大事。革新的・破壊的イノベーションには、「キャズム」(Chasm、新技術への高いハードル)があるといわれています。これから、残りのふくしま未来(2MW)とふくしま浜風(5MW)の実証試験を継続し、安全性・信頼性・経済性を解決・克服できるような知恵と努力をしてほしいと思いますし、一市民としてぜひ協力していきたいと思っています。

<陸上風力の滝根小白井ウィンドファームは、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/48734443.html
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