国立西洋美術館は、その本館が世界文化遺産に登録されていることで有名です。もっともこれ単独というわけではなく、建築家ル・コルビュジエが全世界に残した設計・建築作品の構成資産のひとつですが・・・

いまこそ、独立行政法人国立美術館が運営していますが、その出自は数奇です。そもそもは川崎造船所(現・川崎重工業)社長を務めた実業家松方幸次郎(元老松方正義の子)が、私費でフランスの印象派など19世紀から20世紀前半の絵画・彫刻を収集しはじめたこと。そのコレクションは第二次世界大戦後、フランス政府により敵国資産として差し押さえられた。その後紆余曲折あり、その一部が日本に返還される際の条件として、きちんとした美術館を建設する必要があり、1959年(昭和34年)に設立された。

本館の設計はル・コルビュジエですが、実質的には彼の弟子である前川國男・坂倉準三・吉阪隆正が実施設計・監理に協力し完成したそうです。なお新館は前川國男(前川國男建築設計事務所)が設計しました。前川國男氏といえば、東京都美術博物館の設計者です。同じ上野公園に前川國男氏の作品が並んでいることは、奇遇ではありません。

<東京都美術博物館の大英博物館展は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/43839805.html
2018-10-02 15.18.35

前庭には、ロダンの「考える人」があります。あまりに有名。

2018-10-02 15.18.54

ル・コルビュジエ建築の特徴は、ピロティー(柱)、骨組みと壁の分離、自由な平面、自由な立面、屋上庭園にあります。当美術館の本館はこれらに加え、展示室の中心にスロープで昇っていく渦巻き形の動線に特徴があります。

2018-10-02 15.26.39

建物の平面は正方形で、各辺に7本ずつのコンクリート打ち放しの円柱が立つ特徴的な建物です。1階中央部分は、屋上の明かり取り窓まで吹き抜けとなった「19世紀ホール」で、ロダンの彫刻の展示場となっています。1階から2階へは、彫刻作品を眺めながら上れるように、階段ではなく、傾斜のゆるい斜路が設けられ、これも階段という断絶したものでなく、ずっとつながっていくという意味が込められているのだとか。

2018-10-02 15.28.23

国立西洋美術館のテーマにひとつが、自然光の取り入れだそうです。しかし現在では自然光が安定していないこと等の理由から、人工光がほとんどなのだとか。

2018-10-02 15.43.00

2階は、中央の吹き抜けのホールを囲む回廊状の展示室です。これが、ル・コルビュジエの「無限成長建築」というコンセプトなのだとか。

一方、ル・コルビュジエの当初コンセプトからは、現在の建物の状況は逸脱しているとも感じました。
1. 新館・企画展示館ができてしまったので、将来拡張が必要となった際には外側へ、外側へと巻き貝のように建物を継ぎ足していけるという、無限成長建築は頓挫している。
2. 本館正面に向かって右側にある外階段は、本来出口として設計されたものだが、一度も使用されたことがない。
3. 2階展示室の天井の上は、自然光を取り入れ、明るさを調整するためのスペースとして設けられたものだが改変され、現在は自然光でなく蛍光灯を使用している。
4. 2階展示室には中3階が設けられ、小型の作品の展示場として設けられたものだが、階段が狭くて危険であるという理由で、一度も使われたことがない、等。

2018-10-02 15.34.00

明治期にこれだけの建物が建設されたということに対しては誇らしい気持ちがあります。一方、帝国ホテルや東京駅ビルや迎賓館が横に置かれて、この建物が世界文化遺産といわれても、今ひとつ腹に落ちないところがありました。

2018-10-02 15.52.37