「プライベートバンカー(清武英利著)」の、実在モデルである杉山智一氏による初著作です。「元手5000万円で毎年500万円のリターン」との刺激的なサブタイトルです。利回り10%という高い利回りですが、ある意味実現できそうなレベルが、ウソやはったりでない感じを受けました。

著者の経歴は、野村證券の営業を皮切りに、三井住友銀行、日本の外資系金融機関、シンガポールのプライベートバンクを経て、現在は、独立のプライベートバンカーとして活動しているとのこと。具体的には、日本人富裕層と、外国のプライベートバンクをつなぐ役割をしているそうです。プライベートバンカーの仕事は、顧客が自己の資産を防衛し、運用するためのソリューションをその顧客ごとに提供すること、「富裕層のためのマネーの執事」のような役割だそうです。

実際のレバレッジを効かせた資産運用を説明したパートだけでも、読む価値があります。簡単にいうと、
①まず、海外で海外生命保険に入る(これは、自己資金)
②この生命保険を担保として、自己資金相当額に近い額を外国銀行から融資を受ける
③この融資金額を、リスク・リターンが高い海外ファンドで運用する
④このファンドの運用益で、銀行借入利息を賄う、
⑤将来の生命保険の解約益(もしくは多額の満期保険金収入)を得る、というもの

ここで肝になるのが、海外で生命保険に入し、担保として融資を受け、ファンド運用するという3点。これは、いずれも日本及び日本の金融機関では実現できません。なぜなら日本の金融行政システムは、外国に比べて複雑で、かつ規制が厳しすぎるため。

著者の職業上のポジショントークもあるのですが、基本的には、これは現実の日本の金融行政を表していると思います。これを放置していては、日本の富裕層が保有する資産は、着実に海外に流れていくでしょう(あえて日本を出ていかない日本を愛する層、能力的に日本を出て行けない層を除く)。「角を矯めて牛を殺す」ということわざがあります。日本の金融行政も無知な投資家を保護すべく、金融規制を強めてきましたが、それがかえって投資家の無知を助長し、プロの投資家が敬遠する要因になっています。結果、グローバルな資金にとってすでに、東京は運用の目的地として選ばれていません。東京が世界の金融センターの一角を担う気概があるのなら、不可解な金融規制は即刻撤廃すべきです。

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本書を読めば、さまざまな疑問の答えが書いてあります。

Q. なぜ、日本の金持ちは、こぞってシンガポールで暮らすのか?
A. 法人税、住民税の税率が低いというだけでなく、相続税なし、キャピタルゲイン課税なしという、富裕層を呼び込みやすい税制をとっているから。

Q なぜ、日本の富裕層は海外で資産運用したがるのか?
A. ファンドの運用規制が緩いため、さまざまな金融手法を組み込んだ、さまざまなリスクリターンの運用商品が選べるから。というよりも、日本の(規制により)資産運用商品の選択肢が、あまりに貧弱なんです。

Q. なぜ、日本の金融機関では資産運用がしづらいのか?
A. 日本では、運用ファンドの売買手数料が(海外に比べて)高すぎるため、プライベートバンカーと顧客との間で利益相反が起きてしまう。海外では、運用ファンドは売買時手数用よりも、資産残高に対する手数料を重視しているため、顧客に短期的に資産売買をさせて手数料を稼ぐ(そして顧客はその分だけ損をする)のでなく、長期的に顧客の資産を増大させる投資スタンスをとるため、顧客はいたずららに手数料を支払うことなく、じっくりと資産増大を任せることができるから。
 
ちなみに著者によれば、富裕層の定義とは、純金融資産が1億円以上、通常は、年収2000万円~3000万円以上の人達のことを指すのだそうです。クレディ・スイスの発表によれば、2016年における日本の富裕層は282万人以上存在するそうです。日本人の上位2%ですね。この人達は、間違いなく、こういった情報を着実に入手し、資産を海外に着実に移動させていくことでしょう。