とても刺激的なタイトル。本書の趣旨は、私たち大人は性全般について教えてもらっていない、つまり大人を性教育することが急務ということ。これまでの性教育は、①生殖のための性、②セックスに伴うリスク予防の観点でのみ教えられてきました。欠落しているのは、③快楽のための性、です。どうもこれまでの性教育は、生殖器の勉強や性に対する罪悪感ばかりを植え付けるようなものだったのではないか。

そもそも、現代社会は、高齢童貞と高齢処女がたくさんいて一生独身、結婚するとしてもその時期は晩婚化しています。さらには、夫婦でもセックスレス。個人の嗜好が三次元より二次元に偏向している層も多い。すなわち数十年前の、皆結婚、夫婦+こども複数という標準モデルが完全に変化しているのです。

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この分野に対する議論は、どうしても「限りなく空論に近い正論(政治的には正しいけれども、現実には通用しない抽象論)」か、もしくは「限りなくデマに近い通説(政治的には正しくないけれども、同意してしまいがちなダメ情報)」のいずれか、2極化してしまいがちです。そうではなく著者は、まず男性のキャラクターを、未婚か既婚か、正規採用か非正規採用かの、4象限に分類。それぞれにの現状と課題、それに対する処方箋を、独自に考えたその視点と、独創的な分析は、示唆に富んでいました。
A:未婚×非正規 …… 「貧困世代」の問題
世帯収入が限界まで少ないと、恋愛・セックスという選択肢がなくなるという現実がある。女性に出会う機会があっても、生活費確保が優先されてしまう。この層にいくら恋愛・結婚の素晴らしさ・楽しさを説いても、全く響かないし、そもそも無理。
この層に対する処方は、(経済的余裕がないとしても何らかの形で)本人に自己肯定感を身につけてもらうということ。まずは社会の中で「自分なりの居場所(=一人でいても寂しくない場所)」を見つけること。そしてそこから生まれる安心感や余裕が、もういちど恋愛やセックスへ向かう勇気になるかもしれません。

B:未婚×正規 …… 「嫌婚男子」の問題
女性とのコミュニケーション・スキルを持たない男子。またそもそも女性とつきあう意味がよくわからない男子。結婚はコスト・パフォーマンスが悪いと考えている男子。
この層に対する処方は、単なる結婚賛美や「男子たるもの結婚すべし」といった古めかしい道徳観の押しつけは意味がありません。パートナーを作ることの意義を合理的に納得し、バーチャル・観念の世界で充足しがちなライフスタイルから、リアル・現実の世界の女性とのコミュニケーションへ動機づけが必要。すなわち将来が不透明で、そもそも生物として不完全な自分が生きていくための生存戦略としては、自分を成長させるような信頼できるパートナーを持つ方が合理的です。「嫌婚化」した男性を「親婚化」させるためには、そのメリットを腹落ちさせなければなりません。

C:既婚×非正規 …… 「男は稼いで当然」の呪い
現在、非正規雇用が増加している中、非正規同士での結婚も増えていきます。また妻の収入より男性の収入が少ない場合もあるでしょう。こういったとき「男性は稼いで当然」という昔ながらの考えの下では、ストレスが蓄積されていき、男性の自信喪失からともなうセックスレス、さらには散在や浮気アル中、DV等が起きやすくなってしまいます。
この層に対する処方は、思うように稼げない現実を受け入れて、決して卑屈にならず、自分に「男は稼いで当然」の呪いをかけるのをやめること。そして家庭内で「働く」ことにより、今の自分にできることを確実にこなしていくことです。

D:既婚×正規 …… 「安定の不安定」
この層は経済的も家庭生活も安定していて、一見、問題がなさそうです。しかし現実社会は、不倫が多数発生しています。この層が一見、勝ち組にみえますが、必ずしもゴールでもなければ幸せでもない。マスコミ報道でも「ゲス不倫」や「障害者の不倫」が話題になり、二度と再起できないような社会的制裁を受けています。
この層に対する処方は、、、正直なさそうです。不倫自体を完全に防ぐことができないならば、不倫をした人が過度の社会的制裁を受けない社会にしていくことくらいでしょうか。

著者は、性教育について無理に白黒付けず、グラデーションをグラデーションのまま受け入れるだけの寛容さが必要と主張しています。皆が傷つきあいながら、悩みながら、それでも性愛に対する希望と期待を捨てずに、つながりを厭わず前に進んでいけること。

昨今の教育現場の性教育は、性的なことはオブラートに包み隠して、「命の大切さ」のみに焦点をあてて教えることが多いようです。この発送の根本は、性にまつわる知識はごく自然に覚えるべきものだし、逆に具体的な知識やスキルを含む性教育は子どもがセックスに余計な関心を持つようになってしまい、やぶ蛇だというもの。こうした道徳感情よりも、科学的事実を踏まえ、「どうすれば命を大切にできるか」という視点に立ち、具体的な知識や方法、選択肢を伝え、こどもたちに考えさせるものであるべきではないでしょうか。