入居者が壁紙などを自由に選ぶことができる「カスタマイズ賃貸」を実践し、築25年の賃貸マンションで入居者待ちの行列を生んだオーナーの著書です。著者の青木純氏は、東京・池袋にある賃貸マンション「ロイヤルアネックス」などの不動産賃貸を行う「メゾン青樹」の4代目オーナーです。大学卒業後、中古不動産の仲介実務や不動産ポータルサイトの運営を経て、2011年1月に大家業を継ぎました。しかし直後にリーマンショックが発生し、築25年超、13階建て63戸のマンションの空室率は、30%近くに達したそうです。それが、このカスタマイズ賃貸をきっかけに今や120人!が入居待ちになる部屋もあるそうです。もう、ロイヤルアネックスは、リノベーション業界で知らない人はいないくらい、有名物件です。

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かつて(そしていまでも?)大家としての住宅系不動産管理の基本は、入居者の窓口を管理委託会社に一本化することといわれていました。なぜなら、入退去の管理やクレーム処理を直接、入居者からオーナーにさせると、(一人しかいない)オーナーは対応しきれず、関係が破綻してしまいがちからです。破綻までいかなくとも、入居者から解約予告や修繕要望が立て続けに相次ぐと、オーナーの精神衛生上もよくないからです。しかし、著者はその真逆を行き、入居前もそして入居した後も積極的に入居者とのコミュニケーションを続けたところに、これまでの常識から離れた第一歩がありました。

これまでの不動産管理は、入居者層のターゲティングせず、万人受けしそうな白い壁、汎用品のキッチンや建具を、大家側が選定・発注。退去後も、原状回復のみを繰り返して、次の(顔の見えない)入居者からの申し込みを待つ、というサイクルでした。

その結果が、何が起きたかというと、自分ならこの部屋に住みたいかという問いに答えられないということ。そういうときに「愛ある賃貸」という言葉に出会ったそうです。「愛ある賃貸住宅を求めて NYC, London, Paris & TOKYO 賃貸住宅生活実態調査」という書籍の中に、「賃貸住宅ビジネスは、『きずな』という目に見えないものを維持し続ける、いわば愛のビジネスである」との記載があり、「住み手にとって愛着が生まれる賃貸」を考えるようになりました。

そして、入居前から入居者と複数の打ち合わせをしたうえで、壁紙を自分で選んでもらうということにしました。すなわち個別マーケティングですね。この壁紙選び自体がコミュニケーションのきっかけになり、(入居審査もかねて)この人と一緒に暮らしたいかという視点で、考えるようになる。入居者を一緒に理想の空間をつくるパートナーとして巻き込んでいく。こういったことをやりたい入居者は、間違いなく「暮らしに前向きな人」。この層がマンションの雰囲気を変えていき、まちの雰囲気が変わっていく。

改装代はオーナー負担ですから、月額1万円の家賃アップで(中長期的に)回収していくことになりますが、自分で選んだ壁紙に愛着を感じ、退去は少ないようです。ちなみに、壁紙職人さんも自分の仕事を認められ、さらにやる気になるそうです。

著者の結論は、「大家業はエンターテイメント業」ということ。自分の賃貸を愛し、そこに住む人と一緒に楽しめるか。そういった入居者を喜ばせる活動である大家業を子供たちのあこがれの職業にすることが目標だそうです。

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