前著「炭水化物が人類を滅ぼす」。著者は、自分の身体で糖質制限を実際に試し、医学的にその効果を記してたことが、ベストセラーとなりました。糖質制限治療の第一人者は江部康二氏ですが、ふとしたきっかけで、志を同じくすることから師弟関係となったそうです。考えてみれば、これまで太ること=カロリー摂取過多といわれてきた定説を完全に覆したことは、中世の時代に天動説を唱えるようなものに等しい。科学的。・医学的見地から、栄養素としての糖質の性質を調べ上げ、さらには、大胆な人類の糖質摂取の歴史や生命の進化の仮説等、ユニークな研究の成果の本でした。

さて、そのベストセラーから4年経過し、さらに独自の仮説と持論を展開しているのが、この本です。20万年前の石器時代は「採集」により移動しながら生き延びてきた人類が、新石器時代に入り「狩猟」により定住化。狩猟方法の工夫により、武器や衣類等の道具が進化し、おんぶしながら移動する手間が省けた人類は増加を始めます。さらには1万年くらい前から食糧の自給として穀物の「栽培」を始めます。安定的に保存できる穀物を得たことで、人口の爆発的増加が開始した、というのが著者の仮説。
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著者の主張の肝は、20万年前から人類のDNAは、(当時あった)肉や魚、原資野菜に対応して作られてきたものであり、(突然できた)穀物を対応にしていないということ。20万年vs1万年の歴史の違いということです。具体的には、人類が穀物や糖分を摂取すると、(肉や魚にはない)グルコース・スパイクといわれる、血糖値の急上昇が見られます。それを抑えるのがインシュリン。血糖値の上下変動は人体にあまり良いものではないので、それをコントロールするために、血糖値upのためには人体の器官がさまざまな物質を出すのですが、血糖値downのためには、インシュリンという物質しか人体は持っていない。そのため、穀物摂取過多・糖分摂取過多になったとき、インシュリンの能力を超え、糖分が脂肪として蓄積されていくということ。残念なことに、たまたま人類は「果糖ブドウ糖液糖」という人工的な糖分を、安価で大量生産可能なトウモロコシから、安価で大量生産可能する技術を身につけてしまった。この糖分が、全世界の安価な飲料水に使われていて、人類が糖分過多となっている主要因となっています(どんなスポーツドリンクにも含まれている)。

そのベストセラーの刊行から4年。この間、糖質制限という言葉が、世間に定着してきました。具体的には、ビール市場には糖質オフ商品がずらりと並んでいます。これからは、健康重視の消費者をターゲットに、外食産業(牛丼にも登場!)・スーパー等にも浸透してくるでしょう。

本書の最終結論は、穀物栽培によって繁栄への道を得た人類が、穀物により危機への道をたどりつつあること。人類の多くが、糖質制限することが健康キープにつながることを、知ってしまい、行動に移すと、安価に大量生産可能な穀物の需要が減ってしまい、穀物農家が困ること。そしてその莫大な食糧需要が、肉・魚に向かってしまうと、全世界的に食糧枯渇に向かってしまうことです。なぜなら、肉・魚は、化学肥料・遺伝子組み換え等の技術を駆使して安価かつ大量生産可能となっている小麦粉やトウモロコシと異なり、大量生産ができないからです。ではどうすれば、よいか。著者の提案は、人類の栄養摂取方法のひとつとして、昆虫等からのタンパク質摂取を上げています。日本でも長野地方で芋虫を食べる習慣がありますね。それはそれでひとつの解決方法なのだと思いますが、はたしてそれだけで、世界人類を救うことができるのかどうか。