専称寺は、梅福山報恩院とも呼ばれ、いわきの夏井川のそばの山麓、夏井地区にある浄土宗のお寺です。一時期は、浄土宗名越(なごえ)派の東北地方の大本山、かつ檀林(僧侶の養成機関)として、多数の僧侶がここで起居し、修行したそうです。江戸中期には、本堂・方丈・庫裏・薬師堂・経蔵・鐘撞堂・山門・総門の他、多くの寮舎が敷地内に立ち並んでいたそうです。これらは二度の火災により、ほとんどが焼失。現在残っているのは、本堂・庫裏・鐘撞堂・総門らだけです。そのうち、本堂・庫裏・総門いずれもが、国の重要文化財に指定されており、2011年の大震災で大きな被害を受けたことから、本堂が、平成30年完工を目処に、大規模に修理されることになったわけです(総門は、すでに平成27年に大規模修理済み)。総事業費は、10億円を超える見込み。

<経歴>
1395年 良就(りょうしゅう)が開山
1600年ごろ 一回目の大火災
1620年ごろ 再建、その後、奥州総本山になる
1670年ごろ 二度目の大火災
1680年ごろ 再建

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「専称寺境域の発掘調査成果について」と題して、本堂の修繕工事の前段階として、敷地の発掘調査を担当された、いわき市教育事業団の猪狩みち子様から、調査内容とそこから判明したことの概要を説明いただきました。

独立した石の礎石が整然と並んでいたこと、重要な柱には特別に大きな石が置かれていたことの他、江戸時代中期の陶磁器やかわらけ、多数の銭貨や釘が出土したそうです。また中国から輸入された陶磁器や肥前の大椀も見つかり、当時は相当の力のあった寺院であったことが伺えます。

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九品寺の副住職である遠藤弘道様からも、工事の経緯について説明いただきました。当時は有数の力のあった寺院で、歴史的価値にある建物等を有していましたが、震災前までは建物の老朽化が進んでいるにも関わらず、修繕のオカネがなく、放置されていました。また住職も持たず、最終的には管理人もいないという状態だったそうです。少ない檀家様のために、遠藤弘道さんが、臨時で仮住職を務めることになったとのこと。

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今回の工事にあたって使われた木組みの一部が、触れるかたちで紹介されていました。複雑な木組みは、釘等の金物を使用しないでしっかりと木と木を接ぐことができます。現代でいうところの、小口とほぞの関係ですね。私の父は、長年にわたり家大工をやっていますので、私も高校生のときに、のみを使って小口とほぞを作るお手伝いをしたことがあります。

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ホンモノの木組みの模型が展示されていました。工事完成後には木組みの仕組みを直接、見る機会は永遠にありません。こういった模型があれば、完成後に訪れた見学者が、見て学ぶことができるので有用です。

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焼き印で垂木に「平成二八年度修繕」と刻印されていました。

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修繕後の本堂の天井部分。既存の部材をできるだけ利用するものの、構造体や床、天井等は経年の傷みを考慮し、多くが新しい木材にリプレイスされたようです。

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長野の善光寺から、東日本大震災からの復興を祈念してお釈迦様が寄進されていました。

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こちらは市指定有形文化財(工芸品)の、黒漆塗金蒔絵葵紋几帳。葵の紋ですから、徳川家ゆかりのものが、当時磐城平藩を統治していた内藤公を通じて、専称寺に寄進されたものと思われます。

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本堂は全面を仮設テントで覆って、既存建物の調査解体・部材保管・敷地の発掘調査・コンクリート基礎打ち(必要な部分のみ)・既存部材を用いての復元修理等の作業をしています。

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現在は、最終段階の、既存部材を用いての復元修理中です。躯体及び屋根の木組みが終わり、銅板葺き替えをしています。見事に金色に輝く銅板は、息を飲むほどに美しい。この金色の状態は、仮設テントを外して、雨風にさらされると、数ヶ月で黒ずんでしまうそう。屋根のかかっている今のうちに、見ておけたことは貴重な機会でした。今こそ、このピカピカの専称寺をたくさんの方に見てもらうべきだし、見る価値がありますね。ちなみに銅は、黒ずむのは早いですが、完全な緑青状態になるには、10年以上かかるそうです。

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屋根の裏にも、丁寧に銅板葺が施工されています。鏡のような輝きです。

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既存の柱もなるたけ使われています。こちらは屋根の垂木です。ちなみに施工を担当したのは、松井建設。創業420年の歴史を持つ、日本国内の上場企業では最も歴史の古い建設会社です。施工実績は、築地本願寺・江戸城桜田門・金剛峯寺等、スゴイです。

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本堂の欄間に飾られていた彫刻が、外されて保管されていました。

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市指定有形文化財(建造物)の鐘撞堂。今回の修理の対象外です。

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山門。今回の修理の対象外です。
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国の重要文化財の総門。平成27年度の修繕済みです。こちらも本堂と同じ、銅板葺です。施工直後は、金ぴかに輝いていたそうですが、完成後2年でこの通り、銅が黒ずんで落ち着いた色になっています。

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専称寺といえば梅林が有名です。しっかりと管理すれば、春には美しい梅の花の見物ができそうです。

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