「村上ファンド」といえば、ニッポン放送、阪神鉄道、東京スタイルなどへの一連の投資に対するマスコミ等による報道で「ハゲタカファンド」として著しく評判が悪く、その運営者であった村上世彰氏に対する、世間のバッシングの風はいまでも強いと思います。インサイダー取引で有罪判決を受けた後、株式市場の表舞台から姿を消し、シンガポールへ家族で移住、最近では自己資金で株式・不動産取引を始めたそうで、その動向が注目されています。そんな村上氏の初の自伝(いわく最初で最後の著書とのこと)。彼から見た日本の証券市場はどのようなものだったか、異なる視点から振り返るあの事件は、やはり異常だった。

2006年6月、ニッポン放送株をめぐるインサイダー取引を行った容疑で逮捕され、のちに執行猶予つき有罪判決を受けた村上ファンドの村上世彰氏。灘高―東大法―通産省ー証券ファンドの運営という道筋を選んだ氏のスタンス・投資理念は、徹底した「バリュー投資家」。すなわち市場で割安で放置されている上場銘柄を徹底的に分析し探しだし、短中期で保有する。そして経営陣に経営改革を迫り、ダメなら(高値で)売却する。これを「ハゲタカ」「グリーンメーラー」と呼ぶかどうかは、立場によって異なるでしょう。氏の「投資家が、証券売買でお金儲けすることは悪いことですか」という反論に対し、裁判所はこの投資行動を批判、有罪判決となりました。世界的に著名な投資家ウォーレン・バフェット氏も、自身がバリュー投資家であることを認めています。その意味では村上氏と全く同じ。異なる点は前者が超長期投資であるのに対し、後者が短中期的に資金回収を目指す手法の違いか。

こうして村上氏側からの投資哲学、日本企業は誰のものか、日本の経営者たちの経営責任への見方を見てくると、単なる有罪判決を受けたから「悪者」という単純な見方はできません。この信念が2000年代のインサイダー事件の根っこだったとは、新聞記事からは見えてこない内容でした。

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