著者は、かつて「ミニスカ右翼」、「ゴスロリ作家」と呼ばれた1975年生まれの作家、政治活動家です。今では、革新系、左派・左翼系メディアへ寄稿し、左派系論者として活動し、プレカリアートの問題の論客らしい。それはともかく、この本は日本社会全体の経済状況を範囲にしているわけではなく、あくまで著者が地道に足で稼いだ貧困ルポが11本掲載されています。

精神を病む母親に生後6か月で捨てられ、父親にレイプされて子供を産む女性。長年の介護生活の果て、両親とともに死のうと川に車で突っ込み、娘だけが生き残った一家心中事件」。デパートの課長だった男性は、親の介護のため退職したことが路上生活者そして支援者となった男性。衷心から、気の毒に絶えません。競争社会・実力社会・自己責任という資本主義・自由主義が日本のスタンスだけれど、その前提では人生のスタートラインにつくことさえできない人たちが、たくさんいる現実に目を背けてはなりません。 

あらゆる「貧困」の原因の多くは、経済の問題です(例外もありますが)。「結局、高齢者問題は、ほとんどお金で解決できるのです」と断じたのは、「老後破産」NHKスペシャル取材班です。乱暴にいえば、少子化の原因は雇用崩壊で低所得者層が増えたからともいえるわけです。それぞれ個人ベースでは単に「金がない、定職がない、結婚どころじゃない」という行動の積み重ねが、平均像としての結婚年齢の遅れ、未婚率の高さ、少子化につながっているともいえます。

<老後破産は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/45603610.html
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著者のルポは、おそらく現実で、課題認識も正しいのだと思います。ただこの現実社会で、どんな処方箋がありうるのでしょうか。頭打ちの経済成長下では、福祉に振り向ける財源に限りがあります。著者は(というか多くの左派系論者は)その財源を、法人や高所得者への所得課税、資産への課税を挙げます。しかしこのグローバル社会の下で、企業がどれほどの高税率の国で活動するか(逃避するか)、また企業努力すればするほど累進的に課税されることが、どれほどの脱税の魅力を増大させ、同時に勤労インセンティブを劣化させるかを同時に考える必要があります。

総じていえば、漸増していく福祉財源を増やしていくためにも国民経済、GDPの成長は必要でしょう。そして日本の労働人口の減少は所与ですから、一人当たりのGDP、すなわち生産性の向上は必須条件です。そのために、ホワイトカラーの生産性の向上、ロボットによる人手代替、AIの爆発的普及による人件費の削減等を同時にすすめていく。その代わりに、人はよりクリエイティブ、創造的な仕事や、仕事の仕組みづくりに注力し、付加価値を出していく社会が求められるのだと思います。その中でも当然、社会的弱者は存在するでしょう。だからこそ弱者を救う「ため」を持つこと。そういった活動全体として物質的な繁栄だけではなく、十分な時間と心の豊かさを取り戻し、それぞれが自己実現に努めることができる日本になっていくのはないか。