旧下野煉化製造会社煉瓦窯は、正16角形のホフマン式輪窯で有名。かつては、赤煉瓦の建物の建築の爆発的な需要に対応するため、明治期以降、フル生産されていました。昭和26年ころには、全国で50基のホフマン式輪窯が存在したそうです。しかし、レンガ造の建物は地震に弱いことが、関東大震災で判明。レンガの需要が急減し、ほとんどの煉瓦窯は廃棄されました。現在は4基のみが残されているそうですが、完全な形のホフマン窯は、世界に広しといえど、ここだけ。近代化遺産・国の重要文化財に指定されています。

高さ34m、直径33mのこの窯、運営会社シモレンが経営破綻し、廃棄されるところを、平成18年に野木町が購入。その後、5億円を投じて、外壁補修・屋根かけ変え・鉄骨や鉄筋での補強等をし、一般公開にいたっています。屋根は新建材のガルバリウム鋼板です。いまどきですねえ。

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展示解説は、市民ボランティアの方々です。地元の方だけあって、この窯がどのように使われていたか/さびれていたか/町がいかに保存に注力しているかを、体感しているだけに、説明に心がこもっていました。


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東京駅や日光金谷ホテルも、ここで作られたレンガが使用されているそうです。

ほとんど動力(電気)のない時代。常磐炭田から運ばれた粉炭は、パイスケ(いゆわる、もっこ)で、人力で、この斜路・階段で運搬されました。毎日1.5トンを人力で運びあげたのか。

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レンガの積み方には、「フランス式」と「イギリス式」があります。レンガには「小口」と「長手」があり、一列に小口と長手を交互に並べるのがフランス式。一列に小口ばかり、長手ばかり並べるのがイギリス式です。一般的にはフランス式が美しいとされています。そういえば、江田島の海上自衛隊幹部候補生学校の建物のレンガもフランス式でしたね。

<江田島の海上自衛隊幹部候補生学校は、こちら>
http://www.mikito.biz/archives/45731803.html
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ホフマン式輪窯とは、16個の窯をリング状に並べた連続焼成窯です。これの何がすごいって、連続して何日でも、何か月でも連続して、火を止めずにレンガを製造できること。製鉄の高炉みたいなものです。通常、レンガを焼くには、固めた粘土を窯に入れて、火を入れて焼いて、冷やして、取り出すという工程を経るわけで、火をつける、消すというサイクルが必要です。それをこのホフマン式輪窯というやつは、窯を16個の窯をリング状に並べて、火を入れて焼いて、冷やして、取り出すというサイクルを、16個の窯で順番に連続してしまおうという画期的なもの。

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外壁には16か所にアーチ形の出入口を設けてあり、当時、粘土状態のレンガの出し入れをしていたところから、窯に入らせていただきました。

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窯内部は高さ2.8メートル、幅3.3メートル、平面がドーナツ形のトンネル状を成し、窯内は16室に分かれていますが、なんと、室間に隔壁はありません。風が一方向にしか吹かないので、風上の壁は新聞紙!だけで仕切れるんだそうです。信じられませんが、事実。

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1年間では輪窯1基当たり、約450万個の焼成能力があったそうです。焼成温度は約800-1000℃、燃料は粉炭が用いられ、いわきの常磐炭鉱から運ばれたそうです。実際には、レンガの位置や粉炭の燃え方等で、かなりの焼きムラはあったようで、焼きあがってから、等級を分別してから出荷していました。

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毎日粉炭1.5トンが消費されたそうです。15分毎に燃料である、窯上部にあけられた小さな穴から、粉炭を投入し、庫内は800-1000℃になったそうです。投入時には、火柱があがり、大変危険な作業だったらしい。

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内壁下方には16か所の窯それぞれに中央の煙突に通じる煙道を設けられ、この開け閉めで空気の流れを作ります。

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本来は、耐震性を持たせるためには、写真くらいの鉄骨で補強しないと、安全性が確保できないくらい、老朽化が進んでいます。

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窯が16個あるという証跡。窯番号16番です

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窯の天井の上部には幅約6メートルの床面がドーナツ形にめぐらされています。床面には無数に投炭孔が、空けられています(蓋がついている状態)。

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15分毎の投炭孔の開け閉めは、これも当然、人力。投炭時には火柱が上がるので、コツが必要だったらしい。

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燃料の運搬用のトロッコのレールが一周する形で敷設されており、粉炭の運搬に使われたらしい。かなり簡易がレールですね。

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中心部は、排煙塔です。

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各窯の排煙の空気量も、「ダンパー」と呼ばれる空気量調整バルブで調整します。何から何まで、人力もしくは自然の力を利用していて、まったく動力・電気が使われていなかったことに、驚きを禁じえません。

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当時、作られたレンガの中には、刻印が施されたものも残っています。こちらは「T」と「ホ」の字が判別できます。日本のお城でも、石垣に刻印をするというのは、全国の名城で見られますし。

<熊本城 城彩苑は、こちら>
http://www.mikito.biz/archives/49362062.html
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一方、レンガの自然劣化は止めようがありません。現代のレンガはいざ知らず、当時製造されたレンガは品質にムラがあることはやむを得ず、レンガに含まれる成分が、温度の上下、水分の透湿・乾燥を繰り返すことで、含まれる塩分等が表面に染み出してきて、最終的にはレンガそのものが、ポロポロと崩れ落ちてしまいます。これは自然の摂理で止めようがありません。それを補修するには、その周辺のレンガ全部を取り換える必要があることから、部分補修が難しいそうです。

今回は、産業遺産の保存、そしてそれを観光に活かすヘリテージツーリズムの参考として、視察させていただきました。貴重な産業遺産の保存の有用性に大きくシンパシーを感じつつ、一方、保存のイニシャルコストが5億円、そして維持ランニングコストが予見できないとなると、公的資金を投入することに対する入念な説明が必要になりますね。どこかに最適解があるのではないか。

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