近年、大学生の間で奨学金利用者は急増しているそうです。背景には、学費の高騰とともに、親世代の収入低下によるこどもの学費負担があります。仮にこどもが奨学金を月12万円ずつ借り入れた場合、学部卒業時の返済額は、なんと600万円近くに(ぜひ、一度電卓を入れてみてください)。本の中には、大学時代に借りた奨学金がネックとなり、大学院進学を断念した学生、結婚時に相手方の両親に難色を示された学生の事例が紹介されています。奨学金という「借金」がその後の人生に大きな負の影響を及ぼしている事実。著者の提案のひとつが、給付型奨学金制度を充実させること。(高等教育を膨大な公費を投入して何でも無償化すればよいという暴論でなく)、高等教育を受けたいという熱意と持ち、学習実績を上げている学生に対する給付型奨学金制度は、十分実効性のある施策だと思います。

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私も大学生のときには4年間、日本育英会から毎月4万円の奨学金を借りて、卒業後、たしか10年間かけて毎月の給料から返済していました。たしか毎月2万円くらいの返済額だったと思います(完済済み)。当時の初任給は額面18万円で、社員寮費1万円や社会保険等を差し引かれて、14万円くらいの手取りだったので、2万円/月の返済は、(嬉しくはありませんが)なんとか支払える水準でした。この経験からすると、タイトルの「奨学金が日本を滅ぼす」は大げさかなと思っていました。

ところが!!!今の奨学金の制度や、大学の学費の水準は、私のいた20数年前とは、まったく異なる水準なのです。まず、奨学金の額。当時は1種(無利子)と2種(有利子)があり、自宅2万円、自宅外4万円と、定額かつ低額でした。なので最大借りても累計で200万円でしたが、今では、1種2種は同じですが、最大12万円/月、4年間累計で600万円にも及ぶのです!!!単純に将来の返済額は、私が借りていた3倍の水準、6万円/月にもなり、これは大学出たての初任給から支払うにはあまりに過酷すぎる、と思います。これは奨学金という名の、教育ローンといえるでしょう。

また学費の水準も、私のいた20数年前とは、まったく異なる水準なのです。当時、国立で30万円/年、私立で60万円/年(いずれも文系)が相場でした。今では、国立で約60万円/年、私立で90万円/年が平均です。学費を親が負担しきれず、奨学金を学費支払いに充てている、すなわち生活費まで十分な仕送りができていないということが推測できます。これは日本社会のGDPの停滞、労働生産性が低いこと、賃金の低水準等が要因であり、奨学金制度そのものの問題ではありませんが、学生にとっては、大学生を続けるために、バイトに明け暮れなくてはならないという切実な問題です。

そもそも当時は、日本育英会が運営主体でしたが、いまでは日本学生支援機構と組織変更されていて、取り立ても厳しいそうで、一定期間経過するとサービサーに債権譲渡され、さらに滞納が続くと、金融機関のブラックリストに載るとのこと。こうなるとクレジットカードが作れなくなり、社会生活に支障が来すことになる。そもそも、学生が将来を切り開くために学ぶための奨学金なのにもかかわらず、その返済のために、将来が拘束されてしまうというのは、本末転倒です。

著者の以下の提言は、まったくその通りだと思います。
・延滞金(ペナルティ5%)の廃止
・返済猶予期限の撤廃(払えない人は、時間が経っても払えない人)
・日本学生支援機構による運営面での改革(救済制度の運用面での拡充)
・所得連動型返還奨学金制度の導入(払えない所得水準の方は、一定期間後に返済免除する)
・人的保証の撤廃(親や兄弟に他人債務を負わせず、連鎖破産を防ぐ)
・無利子貸与奨学金の抜本的拡充(やはり奨学金に利子はふさわしくない)

著者は、学費についても定額化を提唱しており、上記の提言の財源も含めて、富裕税に課すとしています。しかし国立大学86校、私立大学600校、入学定員が全国で60万人近いと言われています。1学年60万人×4年間をすべて、無償化・定額化するのは現実的ではないでしょう。