はじめて、内閣官房参与 藤井聡氏の生講演を聞く機会がありました。歯に衣を着せないダイレクトな物言いの中に、しっかりとした根拠と論理的背景、そしてさまざまな経済学者(ノーベル賞のJ.スティグリッツ、P.クルーグマンら世)とのディスカッションを通じて得られた強い信念を感じました。

氏の提言の結論は、積極財政によるデフレ脱却戦略。規律ある財政政策、デフレ完全脱却で「GDP 600兆円=国民所得80万円増」を達成すれば、日本経済は必ず復活する、というもの。具体的には、増税は延期して同時に、年間10~20兆円規模の徹底的な財政政策を展開し、まずはデフレから完全脱却させる。その過程で「600兆円経済=国民所得80万円増」を実現し、同時に「財政健全化」、その後の「持続的成長」を目指す、というもの。安倍晋三首相も、「日本経済再生に必要な、具体的かつ実践的な提案だ」とコメントを寄せています。

序章 「600兆円経済」は難しくない
第1章 スティグリッツとクルーグマンが主張した「積極財政」
第2章 「デフレ」は社会心理現象でもある
第3章 「日本破綻論」という完全なる虚構
第4章 「プライマリー・バランス目標」が財政を悪化させている
第5章 「出口戦略」と「ワイズ・スペンディング」
第6章 「公共事業不要論」というデフレの鬼っ子
終章 アベノミクスを成功させる「5つの提案」

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そもそも何故「失われた20年」になってしまったかというと、行き過ぎた資本主義・自由主義が根本にあります。
①投資や消費が冷え込んでしまい、モノが売れない
②全体的な価格が下がる
③消費財の価格下落は消費者にとって一瞬助かるが、消費者を雇用する企業の収益も下がるので給料も下がる
④給料が下がるので買い物を控える
⑤ますますモノが売れなくなる
⑥ますます価格が下がる
⑦上記の悪いスパイラルから抜け出せない・・・
⑧供給側の論理で、過当競争が続き、中小企業は廃業していく・・・
 
なぜ、神の見えざる手により全体最適が図られるはずの、自由主義・資本主義がうまく機能しないのか。この流れを変える主体は、「政府」です。しかし、自由主義・資本主義が良しとする小さい政府だと、政府が積極的に支出することが許されず、以下の主張がなされてきました。
  
1. 日本破綻論
「日本の借金は増え続けており、今やGDPの2倍の水準に達している。国民一人当たりの借金は、数百万円の水準にも達している。そのうち日本も、ギリシャのように、あるいは夕張のように破綻してしまう恐れもある。それを避けるためにも、積極財政がどれだけ必要でも、やらないほうが国のためなのだ」
 
2. プライマリー・バランス論
「日本の借金はGDPの2倍近く、先進国の中でも最悪の状態である。だからこれ以上、野放図に借金が増えることを避けるためにも、財政運営の規律はとても大切だ。だから、政府の歳入と歳出の差である「プライマリー・バランス」の赤字をできるだけ小さくしていき、最終的に、黒字に持っていかないと、とんでもないことになる」
 
3. 公共事業不要論
「そもそも日本の借金が増えたのは、無駄な箱物を作り続けた「公共事業」が大きな原因だ。そもそも成熟社会となった日本にそんな箱物なんてほとんど要らないし、借金だらけの日本にそんな余裕はない。だから公共事業はできるだけ減らしていくのが大切だ」「コンクリートから人へ」。
 
著者によれば、上記3つの主張は、真っ赤なウソ。日本が取るべきは、以下の施策だ。
 
・消費税増税の延期
・財政政策を基本とした「所得ターゲット政策」
・デフレ安全脱却が、最大の「財政健全化策」
・3年以内の「デフレ完全脱却」を目指し、「規律ある財政拡大」を目指す(初年度は15~20兆円規模)
・デフレ脱却後は「中立的な財政運営」を図る

きわめて真っ当な施策と思います、流動的な政局の中で、どれだけ実効性がある経済政策を実行できるでしょうか。少なくとも「政局」での足引っ張り合いは、日本のため、将来のためになりません。