久之浜・大久公共交通実証運行 浜風ふれあい号に、乗車しました。その背景として、いわきの周辺部地域の共通の課題として、商業施設がロードサイドや都市部に集中した結果、地元の商店が消失してしまっています。自家用車による買い物ができるうちは良いのですが、高齢化により自家用車がない家庭にとって、公共交通が必要なのですが、人口減により多くの路線バスは減便・廃止になっています。久之浜・大久地区でも、平成19年に路線バス路線の廃止以降、交通空白地域となっています。

人口減だからバス運行の採算性が悪化し、減便になり、それがさらに生活を不便にし、人口減に拍車をかける、そんな悪いスパイラルが起きています。その流れを変えるべく、公共交通を実証的に運行し、地元民が利用を拡大することで、バスの採算性をとり、自家用車なしもで買い物生活ができるような地域にできるかどうかを社会実験しようというのが、今回の久之浜・大久公共交通実証運行です。

こうした実験は机上で議論されることが多く、実際、これまでの実証実験のルートの検討は会議室で行われてきました。しかし実際に利用してみないことには、課題や問題点は見えてきません。ということで、まずは現地で実際に、「定時定路型」バスに乗車してみました。乗車区間は、6:37谷地→久之浜駅7:02→久之浜中学校7:40→久之浜駅7:43です。

谷地のバス停標識は、非常に簡素ですが、手作り感あふれるものでした。始発は6:30薪窯パン工場発ですが、乗車人数はゼロ、この谷地からひとりの久之浜中学生が乗車しました。

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実は、いわき市内では同様の取組みが、三和地区・田人地区でかつて実施されており、いずれの地区でも公共交通利用者が思ったよりも増えず、実験は不成功、すなわち本格運行にいたらなかったという経験があります。その経験を踏まえて、さらに工夫をした上での久之浜地区が、住民自らが地域において将来に亘り持続可能な、真に必要とする公共交通が構築できるか、注目しています。実施期間は、平成28年5月6日(金)~平成28年7月20日(水)までの二ヶ月余り。この期間中にどれだけの乗車人数があるかが、本格運行への鍵になります。

この浜風ふれあい号をよく利用するという妙齢の女性にお話しを伺いました。基本的には運行を歓迎し(だからこそ、複数回利用している)ていますが、課題のあるそうです。
・運行スケジュールが利用者目線でない(例:JRとの接続、病院の開始時間)
・今回設定したバス停まででさえ、徒歩移動に時間がかかる
・運行にオカネをかけすぎではないか

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谷地から久之浜中学校まで通学する女子中学生。運賃は大人300円、小学生以下150円、未就学児 無料ですが、中学生の定期利用は一ヶ月10,800円です。朝便は1本しかないので、6:37谷地発に乗車するしか選択の余地はありませんが、帰りは久之浜中学校発が16:45発と18:30発の二つがあるため、部活の有無によって使い分けているそうです。

これまでは両親に自家用車で送迎してもらっていたそうです。徒歩で通学すると片道二時間ちかくかかるとのこと。坂が多いので自転車利用もあまり積極的でないとのこと。その意味では両親の貴重な朝の時間の負担なく通学できることは大きな利点でしょう。

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堤田周辺から、女子小学生1名の乗車がありました。久之浜第一小学校までの利用です。ドライバーさんの話によれば、平日は毎地にほぼ上記学生2名の乗車のみであり、ときおり、それに加えて1-2名の乗車があるとのこと。ドライバーを別にして、9名まで乗車できるジャンボタクシーですが、実際の乗車率はかなり低そうです。

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今回、久之浜・大久公共交通実証運行 浜風ふれあい号を利用して、久之浜駅に接続して、JRに乗り換えて、いわき駅方面に向う通勤客はいませんでした。通勤でよく使われるのは、久之浜駅7:20発の電車です。駅員さんの話によれば、平日は30-40名程度がここから乗車されるとのこと。
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久ノ浜駅7:53発の電車の通勤・通学風景です。約20名くらいが久ノ浜駅から乗車していました。

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公共交通機関としてのタクシー。タクシープールは三台分ありますが、朝の時間帯は1台が待機。

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今回の交通実証運行を踏まえて、他地域で交通実証運行を推奨・助言されている福島大学の奥山修司教授が、7/8に久之浜・大久ふれあい館で講演を開催して下さいました。地域公共交通で成功している例として、南相馬市小高区の「おだかe-まちタクシー」、長野県安曇野市のデマンド交通「あづみん」等の先例を話して下さいました。

特に安曇野市のデマンド交通「あづみん」は、利用者の要望に応じて、予約制でドアツードア(自宅から好きなところまで)を、一回利用300円で実現。人口約10万人、面積331㎢の安曇野市を四つのエリアに分けて、そのエリア内を16台の契約タクシーがカバーしているそうです。利用サービスの予算規模は安曇野市が約6000万円だそうです。タクシー1台当たり375万円。一見、採算がとれるのかどうか考えてしまいますが、タクシー事業者が応募していることから、採算ベースには乗っているのでしょう。

安曇野市のデマンド交通「あづみん」の利用希望は多く、予約でいっぱいになってしまうことも多いとか。仮に現在のサービス提供水準が適正規模だと仮定すると、いわき市の人口は安曇野市の約3倍、市域面積は約4倍ですから、いわき市で同水準のサービスを提供するには、単純計算で1.8億円~2.4億円の税金が必要になるということでしょうか。

伊達市保原町(人口27000人)の先例まちなかタクシーでは、約10年間にも及ぶ調査で、利用した方は3713人、人口比15.8%だそうです。このうち100回以上利用したヘビーユーザー(人口比2.7%)が、利用回数の8割を占めていること、ここから利用者が超偏在化していることがわかります。この地域公共交通に投じられた税金は、基本的に他地域の住民が納めたオカネです。地域公共交通という美名のもとに、特定少数者のために税金投入して良いかどうか、もしくはこれは地域インフラとして利用しない若い世代や他地域にも負担してもらうべきかどうかは、高い政策判断になると思います。

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一方、福島大学の奥山修司教授が提案していたのは、運行コストを(一定程度の狭い)地域住民で負担していこうとするものです。やり方はいろいろありますが、ひとつは地域限定のNPOが、運行コストを負担し、その原資を(便益を得られる)地域住民からの出資や、収益事業で賄っていくという方式です。まだ地域公共交通を必要としていない世帯であっても、将来、利用する可能性があれば、一定額を負担することに心理的な抵抗は少ないそうです。利用者アンケートで、地域公共交通を利用した方の満足度が高いのは、ある意味当然ですが、未利用者からの回答でも、満足度が高かったことがそれを裏付けています。

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今回の久之浜・大久公共交通実証運行は、今日現在も運行中です。どのような結果になるのか中止していきたいと思います。