全国的に、幼稚園教諭・保育士の給与が低い!と叫ばれて、幾久しいです。幼児教育の重要性は、論を待たないところですが、それを担う、幼稚園教諭・保育士の待遇が一向に改善されないのは何故か考えてみました。

<幼児教育の経済学 社会的流動性と社会的包容力は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/44715013.html

全国的にみて、保育士や幼稚園教員の賃金は全産業平均より月11万円ほど低く、保育士の確保が難しくなっているそうです。待機児童の解消のために人材を集めやすくする狙いで、保育士や幼稚園教員の賃金を引き上げる事業者に助成金を支給し、1人あたり平均で月1万円の賃金上昇を想定する提案が出されているようです。それにしても、全産業平均より月11万円ほど低い現状に対して、1万円増やしてもどれだけ効果があるでしょう???
 
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全国はともかく、いわき市内ではどうでしょうか。市内の保育士の給与の現状です。結論からいえば、公立保育園の保育士の給与が、私立のそれを大きく上回っています。議会での一般質問・答弁の内容から、年齢に沿った月額給与の推移グラフを推定・作成してみました。

縦軸:月額給与、単位(万円)
横軸:年齢
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まず公立保育園の保育士の給与ですが、20才 15.9万円、25才20.7万円、30才24.1万円、35才29万円、40才32.7万円、45才34.2万円、50才35.2万円、55才35.7万円、60才37.7万円です。これは、いわき市の職員として給与テーブル(何等何号棒)に従って決められています。昇進のスピードの個人差はありますが、平均すれば市役所職員として他の職種と大きく異なることはありません。

問題は、私立保育園の保育士の給与です。私立なので月額給与は一般に公開されていませんが、2016年2月議会の一般質問で発言されたある議員の調査サンプルに基づいて推測すると、20才15.2万円、25才16.7万円、30才18.1万円、35才20万円、40才22.7万円、45才23.2万円のようです。

就職当初は、公立と私立で大きく待遇は違わないものの、勤務年数の経過とともに待遇の格差が広がり、45才時点では、月額給与で11万円もの差が出ており、私立保育園の給与は、公立の7割に満たないことが明らかになりました。同じ職種で同じ 業務にもかかわらず、民間給与は、公立の7割の水準なのです。

冷静に考えれば、保育士を目指す短大・大学生が目指すべき合理的な選択は、市職員として公務員試験で採用され、公立保育園で保育士としてキャリアを積んで行くことです。しかし公立には採用枠があり、その採用試験に漏れた保育学部・保育学科生が民間保育園にまわっているわけです(もちろん私立保育園の良い学習方針に惚れて、その保育園で働きたい等の例外もあります)。金銭的な待遇だけで現状を極めて単純化すれば、公立保育園で保育士が勝ち組、私立保育園で保育士が負け組という構図です(もちろん、例外もあります)。

私立保育園では低い待遇にがまんできず、結婚を理由での退職を筆頭に、さまざまな理由をつけて途中で保育士としてのキャリアを止める例が後を絶ちません。公立保育園の保育士の途中退職が極めて少ないのに対し、民間保育園の退職率は高く、勤務年数は非常に短いのです。民間保育所でも独自の教育方針を持ち、立派な教育を施そうという気概のある園はたくさんあります。しかし、それを実現する保育現場のベテランが育ちにくい民間の現状では、保育の質を確保することが難しくなりつつあるという面があるわけです。

では、どうすればよいか1。
保育をすべて公立保育園で担当する、ということが考えられます。すなわち民間保育園をすべて廃止して、公立保育園に転換していくということです。自治体の負担はとても重くなりますが、民間保育士は公務員となることで、待遇や給与は確保され、これまでより大きく向上しますので、そこからの退職率は大きく改善するでしょう。ベテランが増えるため、保育の質に寄与するはずです。一方、自治体の負担増とともに、民間の発想からのオリジナルの良い教育方針や機動性がなくなるデメリットがあります。そして最大の課題は、私立保育園にこれまで私財をなげうって保有・経営してきた、民間の教育者の処遇をどうするかの問題に対する適切な解決策が見当たらないことでしょう。保育園の土地や建物をどう買い取るか、民間の教育者・経営者としての今後のポジションをどうするか等について、一律の対応を決めることはできないであろうからです。したがってこのアイデアは、現時点では、荒唐無稽・非現実的といわざるをえません。

では、どうすればよいか2。
目的は、民間保育士の給与を上げることだとすれば、まず私立保育園に対する補助金を上げることが考えられます。私立保育園の経営は、家庭からいただく保育料もありますが、保育士の給与をメインとする運営経費の多くが、自治体からの運営補助金で支えられています。これまではその運営補助金がカツカツだったので、経営上、保育士の給与を上げたくても上げられなかったのです。ただ課題は、運営補助金の金額を上げても、必ずしも保育士の給与改善につながるわけではありません。保育士の給与を上げるかどうかは、私立保育園の経営者次第だからです。うがった見方をすれば、経営者が隠匿するのではないか?という疑惑です。そうでなくても将来の不確定要素に備えるため、園に内部留保することも考えられます。では、経営者を介さずに、ダイレクトに自治体が、保育士に対して給与の補填をする(例えば5万円/月)のはどうでしょうか。しかしながら一見良い政策のように思えますが、その分、経営者が保育士の基本給を下げてしまえば、元の木阿弥になってしまいます。

では、どうすればよいか3。
なかなか解決策が見つからない現状ですが、キーとなるのは、私立保育園に対する地方自治体の指導監査権限だと思います。認可園は、補助金が出ているため自治体による監査があります。財務関係や運営費の支出割合など経理的な監査、構造や、設備、入所人員などの設備や運営面での監査、保育に関わる日誌や給食の提供に関わるような監査、適切な保育がされているかどうかの監査等、さまざまな視点から、不適切な部分がないか、不足な部分がないかなどを精査され、必要に応じて、改善命令がでたり、指導があったりします。この監査の際に、民間保育士の待遇に注力してもらえないでしょうか。すなわち、上記で上げた私立保育園に対する補助金増とともに、保育士の待遇改善金額を具体的に指示して、園に実行させ、それを定期的に監査でチェックするという仕組みです。これとて完璧なものではないでしょうが、民間保育士の給与改善のひとつの解決策ではないかと思っています。