北茨城市民病院を見学しました。こちらはいわき市外とはいえ、お隣の大津港にあり、植田・勿来地区の救急外来も受け入れています。東日本大震災で、旧市民病院が使用できなくなったため、建替えとなり、2014年10月に県立高校があった、郊外の高台に移転になりました(常磐線からよく見えます)。総事業費69.9億円で清水建設が施工しました。
http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=14138127673884
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2014年11月開院の建物は、鉄筋コンクリート造、地下1階・地上4階建で、まだ新築ぴかぴかです。18名の常勤医師で病床数183床(うち療養病床として46床)の運営しています。その他に非常勤医師が29名です(H27.10.1現在、病院HPによる)。一方、この規模で二次救急輪番制当番病院をやっていくのは、なかなか大変だと思います。

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診療科としては、外科・内科・脳外・麻酔・産婦・小児・眼科・循環・歯科・整形・耳鼻・泌尿・皮膚・呼吸の14診療科がありますが、常勤医師がいるのは、外科(5名)、内科(8名)のほか、脳外・産婦・小児・循環・歯科(各1名)となっています。

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事業管理者と院長がそれぞれ別に任命されているのは、いわき市総合磐城共立病院と同じ体制です(同一人が任命されるケースもあり)。常勤医師の出身は、自治医大系・筑波大系のドクターが多いとのことですが、特に系列病院という位置づけではないようです。

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1Fホールには、正面玄関・ホスピタルモールがあります。ここには、総合案内、医事会計窓口、投薬窓口などがあり、外来診療・中央処置室・放射線室・内視鏡室等があり、基本的にこのフロア内で診療が完結できます。このほか、医事課、地域医療連携室、ヤマザキデイリーストア、銀行ATM、院外薬局連絡用FAXコーナーなどがありました。
 
地域包括ケアの中核としての機能及び家庭医療センターにおける在宅診療に力を入れていて、筑波大学と協働して、「北茨城市民病院附属家庭医療センター」(場所は磯原)が平成27年にオープンし、複数の医師が常駐して、家庭医の役割を果たしています。

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2・3階の各病室には大きな窓が設置されており、快適そうでした。基本は4床ベッドですが、一人部屋の差額ベッド代は、約5000円だそうです。

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市街地から離れた高台という立地は、徒歩で通院することができず、自動車での来院もしくは、循環バスによる来院が前提です。アクセス不便な一方、高台からの眺望は素晴らしい。最上階4階の食堂は一般に開放されており、職員も見舞客も一緒にランチすることができます。

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調理室には外部業者が入居していて、ランチを販売しています。本日のランチメニューはカツ丼、お値段は500円ちょっととリーズナブルです。ここから医師の昼食も出すことがあるそうです。

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病院建設費は、183床で69.9億円と公表されています。1床あたり3,820万円。
http://bit.ly/1Q6vP5m

公立病院の建設を支援している自治体病院共済会のまとめによると、公立病院の建設費は、ベッド1床あたりの平均で約3,300万円。これに対し、独立行政法人となった国立病院機構の病院は、1床あたりの平均が約1,600万円。このことから、自治体の公立病院の建設コストは民間の約2倍になっていることが判明しています。北茨城市民病院も、典型的な公立病院のコスト水準なのでしょう。
http://bit.ly/1Q7yYCe

一方、建設費の借金の返済負担は、現在の医師不足で厳しい経営環境にさらに追い打ちをかけるでしょう。 一例として、高知県の高知医療センターの場合は、救急救命医療の態勢を整えるため、1床あたり3,435万円の建設費をかけてPFI方式で建設されましたが、経営難が続いているそうです。 

公立病院改革ガイドライン(H27.3.31)によれば、病院施設・設備整備費を抑制すべきとして、
建築単価の抑制を図るとともに、近年の建設費上昇の動向を踏まえた整備時期の検討、民間病院・公的病院の状況も踏まえた整備面積の精査等により整備費の抑制に取り組むべきである。また、病院施設・整備に際しては、整備費のみならず供用開始後の維持管理費の抑制を図ることも重要」とされています。
http://bit.ly/1Q7ASCI

公立病院の経営に詳しい城西大学の伊関友伸准教授によれば、「自治体関係者には豪華な病院を作って高価な設備を導入すれば医師が確保でき、経営もうまくいくという幻想があるのではないか」とコメントされているそうです。

<まちの病院がなくなる!? 伊関友伸著は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/43998747.html 
 
 素人目の雑感ですが、新築ピカピカである北茨城市民病院の病室の稼働率が低い(ベットが埋まっていない)ように見えました。さまざまな要因があるのでしょうが、医師、看護師不足が影響しているのではないでしょうか。特に看護師は、7対1看護、15対1看護等のように、ベット(入院患者)に対して必要な看護師数が定められており、その基準を満たさないと保険点数が付かない、もしくは減額されるので、稼働率を上げたくても上げられない。北茨城市の人口10万人に対する医師数は、全国平均値の33%、同様に看護師数につきましても39%と非常に少ない医療職で賄っている現実があります(病院HPによる)。これが、許可ベッド数183床のすべてを稼働させられない要因となっているかもしれません。

医師はともかく、看護師を他地域から雇用、招聘することは容易ではありませんので、根本的な解決が難しく、これが病院経営を中長期的に圧迫してくることは、想像に難くありません。あとは開設者である北茨城市が、どれだけその負担に耐えられるかということでしょう。建物は新しくなったけれど、医療スタッフ不足で診療制限がかかったり、建設にあたって発行した病院債の償還が病院単体の収支不足でできなくなるような経営状態になってほしくありません。