知的障害者が畑を耕して作ったブドウを地元名産のワインとして販売している、栃木県足利市にあるココ・ファーム・ワイナリーにお邪魔しました。こちらのワインは、2000年の九州・沖縄サミットの首里城での晩餐会にスパークリングワインが使用、2008年には、北海道洞爺湖サミットの総理夫人主催夕食会に赤ワインが使用されるほど、品質と名声を得ているブランドです。

ここは、障害者支援施設「こころみ学園」と、多機能型事業所「あかまつ作業所」、そして、ワイン製造・販売の有限会社ココ・ファーム・ワイナリーらの複合施設です。現在は100名近くの知的障害者がここに起居して作業訓練を行い、それを100名を超える職員が支えています。住み込みで支える職員も10名以上いるとのこと。

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その設立は1950年代に遡ります。創業者・オーナーである川田昇氏(故人)が、栃木県足利市の特殊学級を受け持ち、知的障害者の不都合な問題を解決するために、行政からの補助金なしで私費を投じて、この足利市の急斜面にある雑木林2ヘクタール余りを購入したことに始まります。そして人力で伐採・開墾し、ブドウ畑に作り替えました。

川田氏は、知的障害者が自立するのを妨げているのは、両親(及び周辺)の保護にあると考え、障害者自らが生き抜くための力をつけさせるため、変化に富んだ山の斜面で、身体を動かしながら働く作業や生活を通じ機能訓練をはかることを考えます。そして、自然な中で、ひもじさに耐えたあとの食事のうまさ、暑さ・寒さに耐えたあとの涼しさと暖かさ、疲れたあとの休息、空腹を耐えたあとの食べる喜び等、生きることの喜びを身体を通して味わうことのできる生活の中から、自らの情緒を安定させ、やる気をつける。身体を動かし、汗を流して働くことをなによりも大切にするということを、生徒にたたきこみました。

当初は、周囲から厳しすぎるという指摘もあったものの、見るからに知的障害者が生き生きと作業し、またたくましくなっていくのを見て、感謝し涙を流す両親が数多くいたそうです。

その後、社会福祉法人には葡萄をワインにするための果実酒製造免許が下付されないため、まず1980年に川田昇氏の考えに賛同する父兄たちにより有限会社が設立され、1984年に酒類製造免許を得てワイン製造を始めたそうです。
 
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収穫し立ての白ブドウ用のシャルドネという種類の果実です。一口頂きましたが、少し小さいのですが、そのままでも甘くて美味しいです。

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赤ワイン用のブドウ。ワイン製造用には、自社農園だけでは材料が不足するため、他の契約農家からブドウだけを仕入れてワインの材料とします。

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奥のステンレス製の醸造タンクが8,000リットル、手前の木製の醸造タンクが2,500リットルの容量があります。ワインの一次発酵自体は、数週間程度とのこと。

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発酵されたワインは、安定した温度・湿度を求めて、山肌をくりぬいて作った保管庫で、瓶詰め・貯蔵されます。

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山肌をくりぬいて作った、ワインの保管庫には225リットルのオーク樽が、約300個貯蔵できます。225リットルといえば、750ml換算で300本。すなわち225*300*300=約2千万本相当のワインが貯蔵できる計算になります。

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創業者の名前からとった「NOVO(ノボ)」という、洞爺湖サミットで提供されたスパークリングワインです。伝統的なシャンパーニュ地方の醸造法である、ビン内二次発酵を踏襲しています。すなわち8,500㍑のタンクで、ブドウについている自然酵母で一次発酵させた後に、シャンパン酵母と砂糖を加え、瓶詰めして二次発酵させます。発酵が進み、酵母等がオリとなって沈殿してくるのですが、それを集めるために、ビンを斜めに立てかけて、一日2回、オリがビンの内壁にくっつかないようにするために、きっちり45度だけ回転させます。それを100日間かけてやるとのこと、気の遠くなる手作業です。実は、このような作業は、こだわりを持つ知的障害者向きの作業なのだそうです。

オリが先端付近に集められた段階で、ビンの先端全体を-20°で凍らせて、コルクと凍ったオリを抜き取ります。そして再度コルクによる栓をし、ワイヤーをかけて完成、2年程度寝かせてから出荷となります。1本8,500円です。

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ブドウ栽培の傍ら、シイタケ栽培もやっています。ナラやクヌギのホダ木だけで1万本。これらは、近隣の雑木林から原木を切り出して、人力で運搬して、適切な長さに切り、水に浸け、叩いて刺激を与えるというルーチンを繰り返します。その直接的な肉体労働が、知的障害者の体力作り、達成感、ひいては自立支援につながるのだそうです。
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店舗併設のレストランで、ランチをいただきました。ブドウ畑を借景にした店舗は眺めが良い。ゆったりとした時間が流れていました。

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直営店舗では、ワインの試飲もできます。目の前の畑で取れたブドウで、隣の醸造所で発酵させ、瓶詰めされたワインが、そのブドウ棚の下で、試飲できるなんて幸せです。

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数量的に一番多く作っているのが、「足利呱呱和飲」だそうです。くせがなく、とても飲みやすい、とのこと。

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メイン商品のワインだけでなく、無農薬の関連商品として、ドレッシングやオイル、調味料等も、ココファームブランドで、この直売店で販売しています。

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各種ジャムも販売。大手流通ルートにはあえてのせていないそうです。考えてみれば、大手流通ルートにのせれば、大きな数量は期待できるものの、ココファームの物語性や、生産者・醸造家の思いは伝わりにくいです。価格としても、どうしても他の商品との比較にならざるをえないし、流通に支払うマージン、手数料の割合も少なくありません。その意味で、ココファームは、直売のみとすることで、足を現地に運んでもらうことで、ココファームの物語性や、生産者・醸造家の思いを共有してもらった上で、ワインをはじめとする商品を(値段をあまり考えずに)購入してもらっています。いわゆる、「6次化商品」のモデルケースのひとつといってよいと思います。

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