子供の学力について内外の調査データを集めて実証研究の成果を解説した本です。教育を経済学の理論や手法を用いて分析することを目的としている計量経済学に、教育経済学という分野があることをはじめて知りました。教育・子育てについては、芸能人や一般の人も含めて、一億総専門家、それぞれがそれぞれの経験や感覚に基づいて、ご意見を開帳しています。その主張の多くは、彼らの教育者としての個人的な経験に基づいているため、科学的な根拠がありません。なぜその主張が正しいのか、という説明が十分になされているとはいえません。それを、データ(エビデンス、科学的根拠と言い換えてもいい)を基に議論していこうとするのが、まず前提です。その上でデータに基づく検証を行い、ゴールを達成するために最も効果的な手段が何かということを明らかにし、改革の道筋を立てようという考えを示しています。教育データに基づく分析という意味では、以前読んだ幼児教育の経済学と同一の論調でした。
<幼児教育の経済学は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/44715013.html
<幼児教育の経済学は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/44715013.html
良い成績を取ったという結果ではなく、何時間勉強したというようなインプットや過程を褒めるようにする。テレビゲームは1日1時間くらいであれば成績に影響しない。教育への投資は早いほど良い。家庭環境が重要。小さい頃にはしつけなどの教育が特に重要。ゆとり教育は格差を広げたし、児童手当は学力向上の効果はなかった。少人数学級には投資に見合うほどの効果はない。教師の質は重要。こういったことが、データ(主にアメリカの実証調査)を元に書かれています。それを踏まえて、「教育にもエビデンスを」という教育政策への提言し、そのエビデンスに基づいた子育てに関する具体的な方法論の例示をしてくれています。
「能力をほめることは、子どものやる気を蝕む」「子どものご褒美はアウトプットに対してではなく、インプットに対して行う」の2つは、私の心に刺さりました。前者は、能力をほめるといい気になって(天狗になって)、努力を怠る傾向がある。逆に努力をほめられた子ほど成績を伸ばしたということをデータで示しています。後者は、テスト結果の優劣に対してご褒美を与えた子より、読書という行為に対してご褒美を与えた方が成績が伸びたというデータから導き出された結論です。なるほど、納得。
教育経済学が、費用対効果のある政策の判定に大きく役立つことがわかりました。まだ日本では、現状として日本の実証データが少ないですが、こういった分析・政策決定に役立てるという目的観を持って、諸データを集めていかなくてはなりません。そして国民の税金で集めたデータを、民間が活用し役立てられるように開示していく方向に持って行かなくてはなりません。現在でも、教育現場の先生方は、個別の政策の効果をある程度肌で感じることができても、数値で示した「費用対効果」までは考えが及んでいません。今後、教育政策の費用対効果を論じるのは、とても健康的なことだと思います。
一方、この教育や子育ては個別性が強い。教育経済学の実証研究は、あくまで政策の全体的な、平均的な効果に着目するものです。それぞれの家庭、それぞれの子ども個性に関しては、平均像で語ることなく、個別に接しなければなりません。保護者が自分の子どもをよく理解し、先生が子どもと向き合うことで、個別に向き合うしかありません。
それにしてもここで書かれている教育・子育てに関する提案等は、教育評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりも、よっぽど価値があります。知っておかないと、あまりにもったいない。本の定価1600円の費用対効果は、抜群です。