先日、文部科学省による「全国学力・学習状況調査」、いわゆる全国学力テストの都道府県別結果が公表されました。小学6年生と中学3年生を対象とし、国語と算数・数学の2教科で実施(今年から理科も追加)されています。上位の常連は、秋田・福井です。ちなみに、2010年調査でいうと、東京は算数Aの場合で6位、大阪は17位です。

ですが、文部科学省「学校基本調査」2010年度の大学・短大進学率では、1位は京都、2位が東京、秋田は33位だそうです。都道府県別の「東大・京大合格者数ランキング」では、1位が東京、2位が大阪、秋田は40位だそうです。これだけを見ると、秋田の子供の小学校時代の高い学力が、その後ガタガタと下がっているように見えます。

一方、中学受験指導で知られる学習塾、四谷大塚が行う「全国統一小学生テスト」の都道府県別ランキングがあります。これは、小2~小5を対象に2007年から実施されていて、全国47都道府県(と海外)で10万人を超える小学生が受験する民間で最大規模の全国テストです。都道府県ランキングは、平均得点ではなく、得点上位3000番までの出現率で表されているそうです。1位は圧倒的な差で東京、次いで神奈川、千葉、埼玉、と首都圏エリアが続き、秋田は43位。進学率や合格者数などのデータを考えれば、四谷大塚のほうが、現在の小学生の学力を表しているように思います。それにしても東京に多くの大学があるとはいえ、両テストの結果には、あまりに差がありすぎます。
 
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 <出典:プレジデントファミリー>
 
ではなぜ、四谷大塚と文科省の学力テストでは結果が大きく異なるのでしょうか。四谷大塚は、全国で塾を展開しており、一部の地域で手を抜くことは考えられません。生徒の数の違いこそあれ、教えるスタイルに地域による違いはありません。その答えは、全国学力テストの参加校にあります。文科省の学力テストは、私立校は任意参加のため、まだ参加校が少ないのです。今の文科省の学力テストは、日本の「公立」の小中学生の学力テストの都道府県順位を表しているのが実態なのです。(優秀であろう)私立の小学校がある東京は、(学力上位の児童が参加していないため)文科省学力テストでは、実力よりも低めにランキングされるのです。

ちょっと待って、それだけでしょうか。中学校・高校ならばある程度の私立学校数があるので理解できますが、都内であっても私立の小学校なんて、慶応や早稲田等、極めて限定的なので、それらが結果の大勢に影響を及ぼすとはとても思えません。優秀な私立小学校の存在だけは、とてもこの差を説明しきれないのです。

ここからは私見ですが、(優秀であろう)私立中学が、東京に偏在していることが遠因ではないか。こういったトップ中学は、ちょっとできるくらいでは、入学試験を突破できません。そのためにトップ私立中学を目指す一部の東京・神奈川・千葉・埼玉・奈良の子は、一生懸命に自分の学力をそれに引上げようと、懸命にもがく。塾にも通って、クラスメートと切磋琢磨して学習していく。それが成績上位となって現れている。一方、私立受験をあえて選択しない層は、朱に交われば赤くなって、ふきだまり・はきだめになっていくことがある。それが首都圏の中での2極化になっていると想像できます。それが結果として 首都圏の中では、(地方よりも)地域内学力格差が、大きくなっています。

トップ私立中学がない地域においては、ちょっとできる子もできない子も、等しく地域の公立中学に進めるので、それほど猛烈な学習をしようというインセンティブがないので、四谷大塚のようなトップ学力の児童を積極的に出現させるような環境にありません。ですから、首都圏のような地域内での2極化が相対的に生まれにくい環境になります。文科省の学力テストで、秋田の結果が良かったのは、(相対的に)よい生活環境・学習環境等なために、他の地域より高順位ということになっているのでしょう。ただ、どちらが児童の環境として良いかはなんともいえませんが、自らの人生をより主体的に生きるという観点からは、私立・公立を自ら選択することができるほうが望ましいと思います(家庭環境やそれぞれの価値観によるところが大きいので、普遍的なものではありません)。

多くの自治体や教育委員会では、文科省の全国学力テストの都道府県順位が公表される度に、正答率が低い問題にどのような指導法や教材などが有効かを詳細に分析した報告書をとりまとめて公表したりしています。そうした分析は、正答率が低いこと要因が、指導法・教材にあるという前提で進められているようです。

しかし本来、地方の教育委員会の指導や教育現場の指導の仕方の優劣は存在しないはずです。各都道府県の教育委員会が一生懸命に毎年、知恵を絞って指導方法や教材を選定しているわけで、そこでの違いが、テストの結果に直接影響を及ぼしているとは思えません。公立学校は、文科省の定める指導要領の範囲内で教育をしなければなりませんので、教育現場の裁量の余地は小さい。その条件下で、テスト対策をやるには無理があるし、さらに学校や教員を追い込むことになりかねません。これ以上、学力テストの結果を教育現場だけに押しつけ、また本来学校が負うべきでない責任まで押しつけてはならないと思います。

学力は学校だけでは決まりません。子どもが1日のうち少なくとも半分以上を過ごす家庭は学校以上に大切な場所です。学力テストというアウトプットと、家庭の資源や学校の資源というインプットの関係を明らかにし、どこを改善すれば、どこを重点的に注力、投資すれば子どもの学力を上げることができるのかを理解することのほうが大事だと思います。