福井県鯖江市では、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりが進められています。その市民と市が共に汗を流すという意志と、それを実現するために市の施策の基本となる事項を定めたのが「市民主役条例」です。リンカーン大統領のゲティスバーグ演説風(「人民の人民による人民のための政治」)にいえば、市民の市民による市民のための「市民主役条例」です。

そして具体的な発現が「提案型市民主役化事業制度」です。条例をベースに、市民が自ら、市民主体であるべき市民サービスを提案しています。これは、市が行っている公共的な事業の中から、市民活動団体、地域のまちづくり組織、事業者等を対象に、公共的な事業を委託・民営化する提案を募るものです。

これにより、これまでなかった市民主役の事業が創出できます。同時に公共サービスの更なる充実とスリムで効率的なサービスが実現できます。その副次的効果として、市民の市政への主体的な参画の実現と市民主役意識の醸成を図ることができるというものです。いわゆる「新しい公共」です。
 
これまで提案型市民主役制度で市から募集された実績数は、5年間で435事業(累計)です。それに対して市民から提案・応募があったのが165事業(累計)、最終的に採用されたのが140事業(累計)です。平成27年度でいえば、総事業費27百万円分の事業が、公から民へ移管されたことになります。

「民間でできることは民間で」というフレーズは、しばしば耳にしますが、実際にそれが実現できているところは少ない。それが毎年、30件以上も公から民へ移管し続けていることに驚きです。

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この市民主役条例の「キモ」は、その定義にあります。以下、参考までに条例そのものを載せますが、条文のほとんどの主語が「わたしたち」になっています。そしてそのわたしたちとは、市民(と市)であるとしています。あくまで市民が主語・主体になっていることが特徴です。通常の条例では市が主語となるはずであり、普通ではありえない。市民主体であることの決意のあらわれと理解しました。

<参考>鯖江市民主役条例 平成22年3月26日制定

(前文)
鯖江の地には、先人の礎のもと育み築かれた歴史、伝統、文化、産業、そして豊かな自然とすばらしい環境があります。地域社会の在り方や生活のスタイルが多様化する中、これらの貴重な宝を受け継ぎ、更に新たな価値を加えることで、住みたい、住んでよかつたと思える鯖江を創造し、子や孫たちに手渡していかなければなりません。わたしたち(市民および市をいう。以下同じ。)は、市民一人ひとりの前向きな小さな声を集め建設的な大きな声とすることにより、思いを一つにし、ふるさとの再生に向けて喜びや痛みを共有、共感できるまちづくりを目指していきます。ここに市民の参加と協働で、未来への夢と希望が広がる鯖江をつくるために、この条例を制定します。
 
(目的)
第1条 この条例は、市民が市政に主体的な参加を果たし、未来に夢と希望の持てる鯖江の実現に向け、市民と市が共に汗を流すという意志と、それを実現するために市の施策の基本となる事項を定めることにより、自分たちのまちは自分たちがつくるという市民主役のまちづくりを進めることを目的とします。
(基本理念)
第2条 わたしたちは、まちづくりの主役は市民であるという思いを共有し、責任と自覚を持つて積極的にまちづくりを進めます。
2 わたしたちは、まちづくりの基本は人づくりであることを踏まえ、それぞれの経験と知識をいかし、共に学び、教え合います。
3 わたしたちは、自らが暮らすまちのまちづくり活動に興味、関心を持ち、交流や情報交換を進めることで、お互いに理解を深め、協力し合います。
4 市は、協働のパートナーとしてまちづくりに参加する市民の気持ちに寄り添い、その意思を尊重するとともに、自主自立を基本とした行政運営を進めます。
(ふるさと学習)
第3条 わたしたちは、ふるさとを愛する心を育むとともに、先人から受け継いだ郷土の歴史、伝統、文化、産業、自然、環境等を、自ら進んで学ぶふるさと学習を進めることにより、家庭、地域、学校が連携しながら、子どもも大人も一緒に人づくりに努めます。
(鯖江ブランド創造)
第4条 わたしたちは、ふるさと学習で学んだ成果を基に、これらをふるさとの宝として更に磨きをかけることにより、自信と誇りの持てる鯖江ブランドをつくり出し、鯖江らしさを全国に発信するとともに、市民主役のまちづくりにいかすよう努めます。
(ふるさと産業)
第5条 わたしたちは、地元で作られた農林商工業の産品を、業種や産業を越えて鯖江ブランドとして磨き上げ、競争力と発信力のあるふるさと産業をつくり出し、活性化するよう努めます。
(地産地消)
第6条 わたしたちは、魅力あるふるさとの産品を率先して流通を図り、利活用することで、産業全体の地産地消を進め、ふるさと産業の活性化やまちの活力を産み出す運動に取り組むよう努めます。
(地域づくり)
第7条 市民は、市民主役のまちづくりの基盤である地域の個性をいかすとともに、世代、性別等を越えたさまざまな立場の人々が助け合い支え合いながら、継続して活動していくことのできる自主自立の地域づくりに努めます。
(ボランティア、市民活動)
第8条 市民は、まちづくりの主役として光り輝きながら、さまざまな地域課題に対応するボランティアや市民活動に積極的に参加するよう努めます。
(情報の集約、発信)
第9条 わたしたちは、市民主役のまちづくり施策を効果的に進めるため、ふるさと産業、地域づくり、ボランティア、市民活動等それぞれの分野で情報を集約し、広く発信していくための仕組みづくりや拠点づくりに努めます。
(市民と行政の情報共有)
第10条 市は、積極的な情報公開や情報提供の運用を進めるとともに、パブリックコメント、審議会、タウンミーティング、ワークショップ等を通じ、市民との間で情報の共有化、活用を図るよう努めます。
(市民参画)
第11条 わたしたちは、市民自らが誇りややりがいを持つて、市政や地域経営に直接携わることができるような仕組みづくりを進めることで、まちづくりの計画からその実施、評価までの各段階に応じ、継続した市民参画を実現するよう努めます。
(条例の自己点検、見直し)
第12条 わたしたちは、市民の意識や社会の変化に応じて、自主的にこの条例の自己点検や見直しを行うよう努めます。
附 則
この条例は、平成22年4月1日から施行する。