静岡県島田市で、過疎化により用途廃止になった小学校が宿泊施設に転用され、利活用されています。全国で廃校が増加している中で、それをどう大きな地域資源としてとらえ、地域ぐるみで取り組んでいくことかは、どの地方都市でも共通する課題です。いわきにおいても田人地区、三和地区でも複数の小中学校校舎が廃校になりましたが、まだ活用方法が決まっていません。

<田人二小の閉校は、コチラ>
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島田市に合併される前の静岡県旧川根町は昭和30年代には800人を超えた人口ですが、現在は460人あまり、高齢化率は50%を超えているそうです。平成18年度末には笠間小が全校生徒9人、笠間中が11人になってしまい、廃校にならないような工夫と、廃校になったらどのように活用していくかを同時進行で検討し、結果として廃校が決定になりました。そして旧笹間小学校を改修し、平成19年3月に川根町青少年自然の家として、年間運営予算20百万円で再スタートしました。学校を宿泊施設に改修するコストとして、農水省の農山漁村活性化プロジェクト支援交付金事業の補助金を受け、約100百万円が投じられました。その後、川根町は島田市に合併され、平成21年4月に宿泊施設「山村都市交流センターささま」として再出発しました。1年間は島田市の直営でしたが、平成22年4月より、指定管理者「企業組合くれば」による管理運営となっています。

なお、企業組合とは、個人4人以上が組合員となって資本と労働を持ち寄り、会社と同じように法人格を有する組織です。若干の税制上の優遇措置があり、また最低資本金制度の縛りもなく、株式会社などと同じく営利を追求でき、その利益を組合員に配分することができる仕組みです。
 
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ここでは、山あいの豊かな自然を生かしてさまざまな生活体験学習やスポーツ・文化などの活動ができます。例えば、山間部ならではの川遊び、山遊びです。具体的には、竹細工づくり、竹飯づくり、ほたる観賞会、川遊び、やまめのつかみ取り、肝だめし、バーベキュー、流しソーメン、そば打ち 等です。どれもまちなかの子ども達には経験することができない、貴重な体験になると思います。また主催イベントとして、国際陶芸フェスティバル、ふるさとまつり、ほたるの里まつり、夏まつり 等をやっているそうです。

また地元自治会にも施設を開放し、普段は打ち合わせの会議室や、地元バンドの練習場所として、夏には、「ささま夏まつり」の会場として使用されています。

利用料金は、8人部屋で3,150円。一人あたり400円弱という超格安。小中学生の利用においては、さらにその半額だそうです。フルサイズの体育館や、夜間照明もある広い校庭、いくら音を出しても問題ない音楽室、自炊室等の施設を利用した、集団スポーツの合宿練習等にぴったりだと思います。現在は、旅行代理店を通じた予約やPRは行っておらず、利用者の口コミと、新聞記事の紹介、センターのブログ・ホームページを見た方からの予約でやっています。利用者の3割は島田市内、3割は島田以外の静岡県内、残りは焼津や関東近県からの利用だそうです。

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校舎は、鉄筋コンクリート造 2階建で、体育館、音楽室、多目的広場(夜間照明施設も!)もあります。校舎の2階には、洋室(定員8名)7室、和室(定員6名)2室があり、最大80名が宿泊可能です。教室は、2つに区切られて洋室・和室となっています(各部屋エアコン完備)。理科室は、自炊用の調理室に改造されています。その他に、男女浴室、食堂、研修室、会議室、和室(大)がありました。

洋室には木製の二段ベッドが4つ並べられていました。シーツは別途310円で貸出し。

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和室(大)には、畳が敷き詰められていますが、小学校時代の黒板がそのまま残されています。和室で大部屋ならば、夜の枕投げ!でしょうか。この黒板を使って研修もしてみたい。

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フルサイズの体育館は、廃校になったものとは思えないくらい手入れが行き届いていました。バレー、バスケ、バドミントン等、何でもできそうです。

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旧音楽室は別棟になっているので、どれほどの大音量を出しても、宿泊者・近所迷惑にならないのがいい。一番の利用者は、近隣の住民がメンバーとなっている「オヤジバンド」だそうです。

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自炊室は、食材を持ち込んで調理する部屋です。食事は自炊が基本です。調理器具や食器は自由に使えるので、引率するお母さん達が腕によりをかけて準備することが多いようです。事前に注文すれば、地元の方々が調理された食事提供も可能です。

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旧職員室は事務室として使用されています。訪問当日は、経理の監査中でしたので、書類・文書が山積みでした。
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最寄り駅の島田駅から、自動車で1時間の場所にあるこの笹間地区は、都心の光害とは無縁の地域。澄み切った空気は夜空を満点の星空にすることでしょう。小学校の備品であったであろう望遠鏡がここで大活躍しそうです。

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廊下は小学校のときの雰囲気そのまま。

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小学校の校歌、校旗は当時のまま、保管されています。この施設が利用されてきた歴史的経緯を知ることができるので、こういったものをきちんと保管・展示していくことは、利用者にとっても地元にとっても大事なことだと思います。

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小学校校舎から宿泊施設への転用経費1億円は、農林水産省補助事業である、山村振興等農林漁業特別対策事業から充てられました。

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現在は、島田市の教育委員会が所管し、企業組合くればが、指定管理者制度により運営を受託しています。企業組合くればは正社員3名、嘱託4名、登録制の臨時スタッフが18名で、年間運営費1,800万円で運営しています。ほとんごが地元の方で、地元貢献としておこづかい程度の収入で、建物維持管理・清掃をやっているようです。年間の利用者は1万人を超え、宿泊者数も3,000名以上で、そこからの利用料収入は400-500万円程度。その差額1,300-1,400万円を、島田市が指定管理フィーとして、企業組合くればに支出しています。支出理由は、社会教育施設としてこどもたちの健全育成を図るとともに、観光交流施設として市外からの入込客数を増加させることです。

こういった施設の整備目的として、しばしばいわれるのが、「地元雇用の創出」。しかし運営費を見る限り、大きな報酬を支出できるわけではないので、これはあたらないと思います。それよりも、この施設の運営により年間1万人の入込み客数が増加したといわれており、それに対応するために、当該地域へインフラ投資がなされるということのほうが地域にとって直接的なメリットになるのではないでしょうか。具体的は、そのような市外からの入込み客数を確保するための、道路の整備です。島田市の中心部から県道で笹間地区まで来ましたが、その間2カ所で県道の道路補修工事が進行中でした。道路工事は優先順位で着手されますので、もしセンターがなかりせば、このような補修工事がどうなったかはわかりません。

廃校校舎の転用改築に1億円を投じ、さらに毎年1千万円以上の運営費を公費から支出することについて、きちんとした理由が必要です。第一に、社会教育施設としてこどもたちの健全育成を図るのか、それとの第二に観光交流施設として市外からの入込客数を増加させるのか。両にらみだとは思いますが、まずは市内のまちなかに住むこども達に、山間部ならではの川遊び、山遊びができる、まちなかの子ども達には経験することができない、貴重な体験をする社会教育施設としてのありかたなのではないかと感じました。それが面白いということが実感でき、教育旅行としての商品として熟成されてから、市外の方の観光客の入込み客受入という流れがよいのではないか。いわき市においても、過疎地の廃校利活用の方法のひとつとして参考になりました。