原題は、「Dollars & Sex」。なんという刺激的なタイトルでしょう!ちょっと恥ずかしくなりますが、分析の切り口はまちがいなく経済学・経営学的でした。この本を大学生が読めば、まず間違いなく経済学の勉強をさらにやりたくなるでしょう。

超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業とのこと。愛はお金で買えるのか? 結婚は妥協の産物なのか? SNSは恋愛をどう変えたのか?等等。恋愛、セックス、婚活、結婚、不倫、離婚といったテーマを、オーソドックスな経済学のツールで分析します。その分析は豊富な調査データに基づき論理的で、かつ心理的な行動分析も踏まえているので、学生たちがセックスと恋愛に関するさまざまな分析成果を私生活に活かすことができる、ということで人気講義になったそうです。

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いわゆる「下ネタ・お下劣ネタ」を題材に型学的な視点を折込んだ娯楽書と断罪するには、あまりに分析レベルが高い。著者がさまざまなテーマ(一見、おふざけに見える)を、本気で、時間をかけて分析し、実証し、さまざまな研究論文から引用しています。独創的な推論も見られますが、既存の論文やデータからロジカルに考察している点、加えて、人間のあらゆる心理状態での心理学的な考察も加えられており、その考察の鋭さに思わず膝を打ちました。
 
・あらゆる面で妻のほうが家事が得意であっても、家事分担したほうが全体としての生産性が向上する(デビッド・リカルドの比較優位論がベース)
・避妊具の普及によって、若年層の性体験や結果的な妊娠はむしろ増えている
・肥満体女性は太れば太るほど、結婚の見込みが低くなるばかりか、結婚相手の所得が下がっていく
・結婚によって格差が広がっている(同じ価値観・宗教観の男女が結婚する確率が高いことで,お金のある人はやっぱりお金のある人と結婚する。価値観が異なる貧乏人が、お金持ちとはくっつきにくい)
・女性の高学歴化が進みこれが大多数になると、子どもの貧困が増える(低学歴な女性がお金持ちの結婚市場から、貧乏人の結婚市場へ追い出されその結果、子供の貧困化が進む)
・若い女性が都会を目指すのは、出会いのチャンスが多いから(地方にいると出会いの期待値が下がる)

上記のような、独創的な推論を、現状のデータの裏付けから説明する展開は、さすが大学の教授らしい。とはいっても、研究対象は上品とはいえないテーマばかりで、経済学者として本流ではないでしょう。低俗とのレッテルを貼られるのを覚悟で、あえてやっている著者の大胆さにも脱帽です。

序論に著書の前提条件(注意書)が3つ書いてあるのですが、それが秀逸。
1. 経験データに基づく経済学的理論は、社会のすべての人々を描くものではなく、平均像的な行動を描くもの。人間の行動は複雑であり、下す決断は最終的には個人的な好み次第です。
2.  本書の証跡は、いずれも公的な意見調査ではありません。個人が実際にどんな行動を選択したかを観察し、選好を推量する作業をしています。
3. 本書の議論は、もっぱら実際に人々がどう行動しているかについてのものであり、どう行動すべきかについてものではありません。行動の善悪は論じていません。