平成26年5月に発表された「日本創成会議」の報告書、いわゆる増田レポートは、出産年齢である20-39歳の女性の減少に着目して、2040年には896の自治体が消滅しかねないというショッキングな内容で各方面の注目を集めました。著者の増田寛也氏は、元岩手知事、元総務相。人口減少が明らかなのに有効な手を打たない行政にもの申すべく、確かな資料から増田レポートが作られました。本書はその増田レポートをベースに、各地での取り組みや、日本総研の藻谷浩介氏や宮城県女川腸脳の須田善明氏らとの対談などをまとめたものです。

<藻谷浩介氏からいわきへの提案は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/30993813.html

「自治体消滅」という言葉はショッキングなものですが、分析されたデータそのものは、決して目新しいものではありません。すなわち、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)」であり、データや推計結果は、は誰にでも公開されています。大事なのは、データはずっと目の前に置いてあり、問題は明らかだったのですが、誰も関心を示してきませんでした。有効な手立てがない難しい問題に手を付けなかっただけという言い方もあるかもしれません。問題を直視したくない人にも、問題を見えるようにした功績は大きいと思います。年金破綻の問題と似てるなあ。

東京の人口一極集中、地方の若年女性人口の減少、東京の本社機能一極集中、企業の雇用形態の変化、結婚希望者の低減、結婚希望者の既婚率の悪化、良くない子育て環境による既婚者夫婦の出産率の低下、核家族化の増加、年金受給者の増加、故郷に戻れない・戻らない若者の増加。

多くの地方で、若者に適切な職業がないから「仕方なく」都会への流出を余儀なくされている。これは、地方の経済雇用基盤そのものが崩壊しつつある事を意味しており、地方が「消滅」プロセスに入りつつあるといっていい。やがて高齢者すら減り始め、高齢者を含めた「人口減少」による消費の低迷が進んでいくであろう。 

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女川町長の須田氏が、町の復興にあたり、町内で150回以上の説明会を開いて、町の規模縮小に向けた住民合意を取り付けていったそうです。そこで話したことは3点。これには激しく賛同しました。
1. 復興財源の多くは国費だが、1000億円かかれば一人800円、2000億円かかれば1600円、全国民からの負担で成り立つ復興であり、それを踏まえれば、復興のための国費だからこの際何をやってもいい、という考えはありえない。
2. 安全な宅地を作れば復興、ではない。それを通じて将来世代が引き継げる街を創れるかが問われている。今だけをとらえるのではなく、将来像を見据え、今を乗り越えることが重要。
3. 復興は当事者である我々一人ひとりが皆で取り組むものであり、自ら立ち上がる姿勢がなければ、支援の手さえ離れる。

人口減少社会では、とりわけ人材への投資が重要になってきます。一方、生活のための必要な公共サービスは維持していかなければなりません。これから1.2億人のサイズに合わせて作ってきた公共施設が老朽化し、道路・橋梁の建て替え・改修時期を迎えます。はたしてすべての施設でそれが財政的に可能なのか、今後の人口動態を考えた場合、必要なのかを検証しなければなりません。

<朽ちるインフラについては、コチラ>
 
その際のキーワードは、まちの集約化と多機能化です。しばしば地方都市はコンパクトシティを目指すべき、ということが叫ばれますが、効率的、効果的にサービスを提供するための「守りのコンパクト」だけでなく、新たな価値を生み出す「攻めのコンパクト」です。都市集中の効果は、経済学的に立証されていますし、日本でも内閣府が実証研究を公表しています。その統計分析結果によれば、人口集中度が高い地域の方が労働生産性は高まる。特にサービス業はその集積による生産性向上効果が大きいとされています。また、事業所密度の上昇、すなわち事業所の集積度の上昇は労働生産性を高める傾向にあることがわかっています。仮にある県の事業所密度が2倍になれば、労働生産性は約12%上昇するとのこと。企業間の地理的な近接性は、フェイス・ツウ・フェイス・コミュニケーションによるアイデアや情報、技術知識の交換を通じて、研究開発やイノベーションを容易にすることにより、都市全体の生産性を高めると考えられます。規模の経済とともに、多種多様な業種とのこうした相互交流を通じて獲得された多くのアイデアやビジネス機会等のメリットをもたらす集積の経済が、労働生産性を押し上げます。いわきにおいても廃炉研究をはじめとする新たな産業が興りつつあります。これからは行政・医療・福祉・商業が新たに集積することによって人・モノ・情報が活発に行きかうことによる、新たな価値創造・イノベーションを期待したい。

<内閣府 地域の経済2012>
http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr12/chr120302.html
 
それには地方にある地方中枢拠点都市に人口の「ダム機能」を持たせることです。これから当面引き潮を迎える地方圏が踏みとどまるための、人口流出を食い止めるアンカーの役割です。地方の持続可能性は、若者にとって魅力がある地域かどうかにかかっています。もうほぼ答えは見えています。若者に魅力のある地方中核都市を軸として、新たな集積構造を構築できるかどうかが、地方生き残りの最後の策でしょう。まちがいなく地方の人口減少は避けられないし、予算等も年々縮小していきます。国からの地方交付税も縮小方向にあるでしょう。その条件下で限られた地域資源を再配置し、地域間の機能分担と連携を深めていくこと(地方中枢拠点都市を拠点としつつ、それに接する各地域の生活経済圏が有機的に結びつく状態)、いわゆる選択と集中が求められることになるでしょう。仮にそれができたら、東京圏に比べて住環境や子育て環境が恵まれているので、若者世代の定住が進み出生率も上がるかもしれません。