見送ル、本書は国立がんセンターでの事例をメインに、末期の老人が死に行く瞬間を医療現場の医師の視点から感じたことまとめたものです。いちおう「小説」ということになっていますが、主人公は著者自身であることは明らかです。喘息や肺がん治療の最前線で闘ってきた著者だけにリアリティがあります。現実に目の前にあるいくつもの生や死が描かれ、患者本人、家族、治療に当たる医師の微妙な関係に心が震えます。

癌治療に当たる医師のによる医療判断は、限られた情報の中で最善の決断を迫られます。余談ですが、さまざまな治療法や内科・外科の関係など癌治療の実例を読み、がん治療そのものに関する知識も深まり、改めて癌治療は現在の医学・科学では、絶対的な答えのない世界であるのを実感しました。

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サブタイトルが、本書の内容を的確に表しています。「輝く笑顔で退院する患者を、見送る。どんなに力を尽くしても見送る。小説でしか書けない現役医師だけが知る病院の現実」。逆説的ですが、医業従事者以外が、現実をきちんと知る機会は小説でしかない(他の媒体は正確に情報を提供していない)ということに、薄ら寒いものを感じました。