中央教育審議会が、現行では教科外活動扱いの小中学校の「道徳の時間」を「特別の教科」(仮称)に格上げして導入するよう下村博文文部科学相に答申しました。学習指導要領に基づき、検定教科書を用いて、教員によって教えることになります。そして記述式評価(5段階評価等でない)を行ないます。教科化は2018年度からになる見通し。

現行の指導要領でも道徳の時間がとられていますが、答申では「道徳性」や「道徳的実践力」という形では分かりにくいため、「様々な問題や課題を主体的に解決し、よりよく生きていくための資質・能力を培う」という目標を目指すそうです。児童・生徒に対する評価は、教員が、学習状況や成長の様子を総合的にみて、通知表などに記載するとのこと。授業時間数は現状通り小1は年34時間、小2~中3は年35時間。

<日本経済新聞2014.10.23>
http://goo.gl/NAslJh

私見ですが、道徳は豊かな人間性を育むために不可欠だと思います。将来を担う日本人の若者が国際社会で生きていくための必須の身につけておくべき修練でしょう。特に、自由主義・貨幣制度経済の下で生きていく以上、道徳こそが日本人の存在理由なのではないかと思います。よって道徳に力を入れていくことは、論を待ちません。ただ、単に「教科へ格上げ」することについては、大きな懸念を持っています。

1. 学習指導要領では、必ずしも道徳の心が伝えられない
道徳は、日本人のあるべき姿を、先人の行動様式を例示し、それぞれが考えることによって体得すべきものと考えます。教師の行動様式を規制する学習指導要綱は、そのような性質を持っていない。

2. 教諭の資質によって、必ずしも正しく生徒に伝えられない
道徳は、日本人としての行動や、人と人との関係性を教える科目です。教職課程をパスをしたり、採用試験に合格することで道徳を教えられる能力が身につくものではありません。算数や国語のように知識やスキルを教えるものと本質的に異なるので、現場の教諭により、大きく道徳の教え方・伝わり方に差が出ます。

3. 教科書検定をパスする教科書に、道徳の本質が載せられない
現行の教科書検定は、そうとう厳格です。道徳という、日本人としての考え方や行動様式を示すような内容を教科書検定で決めることは難しいのではないか。例えば、以下のリンクのような、日本人として生きる例を指し示してくれるようなものであれば良いが、検定の方針如何で、とんでもない道徳という教科ができはしまいか。

<日本人として生きるは、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/37165821.html

4. 道徳は、生徒を「評価」すべきものではない
すでに「評価方法が判然としない」との指摘も出ており、教員による指導内容や評価のばらつきも懸念されます。そもそも道徳という科目は、評価するような性質になじまない。

5. 現場教師にさらなる重荷となる
現在でも、教育の現場の教師は多忙です。授業だけでなく事前準備・部活の指導・採点や評価・県教育委員会等からの調査依頼・保護者対応等等・・・。国際調査でも日本の現場教諭の多忙さが指摘されています。それに加えて道徳という、非常に対応が難しい科目の新設となれば、さらなる負担となることが予想されます。他の授業の質の低下だけでなく、教師自身の健康やモチベーション維持も心配です。

<教育現場の疲弊 OECD国際教員指導環境調査(TALIS)は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/39515436.html

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戦前には、明治から文部省から国定修身教科書が発行され、この教科書に基づいて修身教育が行われました。修身教育は、明治、大正、昭和と3つの世代を通じて長い間日本人の精神形成の中心的な役割を担ってきました。そして、第2次世界大戦の敗戦にともない、占領軍指令で授業の終了と教科書の回収が決定され、日本の教育の現場から姿を消しました。

"修身"の教科書には、吉田松陰を始め、勝海舟、加藤清正、米国初代大統領ワシントンなど、古今東西の偉人の話が載っていました。そして、その方々の具体的なエピソードを通して、"正直"、"勤勉"、"正義"、"公益"などの徳目を教えていました。修身の教科は人格形成に大きな影響を与えます。親から子へと語り継ぎ、世代間で共通の道徳観を持つことができました。これって、まさに道徳教育でしょう。

修身教科書の最初にあった「教育勅語」を筆頭に、修身の教科で教えられた主な内容は次の様な内容でした。
「家庭のしつけ」「 親孝行」「家族・家庭」「勤労・努力」「勉学・研究 」「創意・工夫」「公益・奉仕」「博愛・慈善」「質素・倹約 」「責任・職分」「 友情」「信義・誠実」「師弟・反省」 「正直・至誠」「克己・節制」 「謝恩」「健康・養生」「愛国心」 「人物・人格」「 公衆道徳」「国旗と国家」「国際協調」など。
 
教育勅語の一部にある「愛国心」から戦争を想起させるため望ましくないという部分を除けば、完全に日本人の行動様式・精神論・道徳観ではないか。有識者なる方々が、その知識や能力の範囲でいちから道徳という教科書を編纂しはじめるよりも、先人の作り上げてきたものを咀嚼し昇華させた上で、道徳の教科書を作ってもらいたい。