著者のC・Wニコルさんは、英国南ウェールズ生まれの作家です。17歳でカナダに渡った後、カナダ水産調査局の技官として、北極地域の海洋哺乳類の調査研究をし、カナダ政府職員として北極に計12回の調査探検に言っています。日本には、空手修行のために来たのがきっかけで、日本の自然の山の原風景に見せられ、ついに日本に定住し、日本国籍も取得しています。

経歴からも自然環境問題に詳しく、これまで講演やメディアを通じて積極的に発言し、自然の野山を愛し、手入れをしながら残していくことを主張されています。ついに1984年から、長野県黒姫の荒れ果てた里山を購入し、手を入れながら、『アファンの森』と名づけて森の再生活動を実践を開始します。アファンとは、英国ウェールズの「アファン・アルゴード森林公園」にちなんで名づけたものです。アファンを直訳すれば「風のギャップ」だそうです。

かつてアファン・アルゴード(Afan Argoed)という炭鉱地域は、採炭地として栄え、石炭を輸送する鉄道や支線がひかれ、採れた石炭は世界にむけて送り出されました。炭鉱住宅も何百軒もあったそうです。約100年に渡って掘られた石炭ですが、閉山後はボタ山は放置され、樹木もない、花も咲かない、川には魚もない状態でした。森林の大部分が伐採され、森林面積が一時期はわずか5%にまで減少していました。

しかし、終戦後復員した3人の若い小学校の先生によって森の再生への取り組みが始まりました。彼らは、子ども達にこれから何を教えていくべきか考えた末、10ヘクタールの荒れた土地を借りて、まず子ども達と一緒に木を植えました。そこで子ども達に「仲間と協力すること」「他の生き物を大事にすること」「地元の歴史や生態系などに誇りを持つこと」、そして「未来を信じること」を教えました。

次に、森の大切さを学んだ人たちが「ボタ山に木を植えよう」と運動を始めました。最初は小さな運動でしたが、それに触発されて次第にみんなの意識が変わり、社会全体が動き出したのです。今ではその地域の町や村の周辺が全て緑に変わりました。川にはサケやカワウソも戻ってきましたし、海岸もきれいになりました。10ヘクタールだった森が今や3万ヘクタールにまで広がり、今では60%にまで回復しています。そして「アファン・アルゴード森林公園」(Afan Argoed Forest Park)という国立公園になっています。

C・Wニコルさんは、アファン・アルゴード森林公園の例に習い、ご自分の著作の印税や講演料を、土地の追加購入費にあて、すこしずつ面積を増やし続けています。これの意志に賛同した篤志家が寄附をすることで、森が拡大しています。2002年には森の保有・運営のための「C・Wニコル・アファンの森財団」が設立されました。地球の自然環境の保全に貢献したとして、2005年に(日本政府でなく)英国政府から、大英勲章(MBE)を授かったそうです。

C・Wニコルさんがアファンの森で行っている森の再生方法の一つは、スギなどの針葉樹を間引き、カツラやナラ、ヤマザクラ、クリなどの落葉樹を植えるというものです。そうすると、上から十分な光が届きますから、落葉樹は真っすぐ育ちます。最初のうちは針葉樹の幹に光が直接当たって木が苦しみますが、落葉樹がだんだん成長するにつれて針葉樹の幹に涼しさを与えるようになります。しかも、太陽の光がまばらに下まで入ってくるので、地面では花やキノコ、山菜などが咲きます。そうすると針葉樹も立派に成長します。アファンの森でも混合林に変えてからは、最初は首ぐらいの太さしかなかった木が、15年ぐらいでとても立派に育つそうです。そうして森の木々が育つと、保水力や生物の多様性も蘇り、森の生産力が上がります。場所と状況にもよりますが、この方法は森林を育てるためのワン・オブ・ザ・ベストなのでしょう。

そのためにも森に優秀なレンジャー(森林監視員)の配置が必要でしょう。日本にはたくさんの国立公園がありますが、他の文明国に比べて、訓練を受けたレンジャーの数が圧倒的に少ないそうです(300人くらい)。海外をみると、人口が日本の5分の1のカナダは4000人、アメリカは9000人、ケニアは3000人、英国でも1000人ほど専門教育を受けたレンジャーが配置されているとのこと。一方、日本では公・個人所有にかかわらず、経済性に見合わないという理由で手入れが、おざなりになっています。「里山」と呼ばれる雑木林も全く手入れされないまま、藪になっています。特にスギ山は貧弱で暗く、保水力や生物の多様性も少ないそうです。

国外のレンジャーは、基本的なアウトドアの技術と経験を持ち、基本的に森林に常駐して森林管理を行ないますが、それにとどまらず、学校の先生がアシスタント役として子ども達を対象とした野外教育もやるそうです。実際に森の中に入って体験することで、自然の大切さや人と協力することの大切さを学びます。また、実際にフィールドを動き回ることで体力づくりにもつながります。そのように、様々な意味で「人間づくり」の授業の場となるそうです。これは日本の他の地域でも大いに参考になると思います。
  
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