フランスのガール県にあるマルクール原子力地区を視察しました。ここは、かつて原子爆弾製造の研究施設として設立され、特にプルトニウム抽出施設として建設され運営されてきました。その後、発電用の第一世代の原子炉3基(G-1~G-3)が運転され、現在その廃炉作業が進められているところです。フランスの原子炉解体は、1991年の放射性廃棄物管理研究法(バタイユ議員が提出したので、バタイユ法と呼ばれる)と2006年の放射性廃棄物等管理計画法(バタイユ法のフォローアップ)という2つの根拠法に基づき計画的に実施されています。元原発・廃炉の現場を見たのは、昨年のドイツ カルカー原子力発電所に次いで、2例目です。

<カルカー原子力発電所>
http://www.mikito.biz/archives/32936347.html

マルクール敷地内に20あまりの原子力施設があり、15施設は依然として国家機密に属しているそうです。写真は、現地視察時の入構許可証です。1ヶ月前以上にフランス外務省に申請して許可証を発行してもらいましたが、過去に例がないということなので、ひょっとすると我々の視察が日本初の視察なのかもしれません。

<フランスの原子力政策は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/40669470.html
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毎日5,000人が勤務する、278ヘクタールのマルクール原子力地区の敷地はローヌ川沿いにあり、アヴィニョンから上流30kmの地点にあります。周辺はワイン用のブドウ農園が広がっていました。ここが建設用地として選定された理由は、①ローヌ川の豊富な水を冷却水として利用できる。②大規模な街から遠い田舎(であった)、③ミストラルという強い風が吹くため(万が一の際に、蒸気等を上空へ吹き飛ばせる)。なお施設入口には武装した厳重なセキュリティチェックがあり、検問所の前はチェックを受ける自動車で渋滞していました。写真は、CEAから頂いた広報パンフレット掲載のもので、マルクール核廃棄物処理施の全景です。
 
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マルクール地区の核施設は、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA:Commissariat à l’énergie atomique et aux énergies alternatives)が廃炉作業の主体となり、運転者・施主・研究等の役割を担っています。AREVA等の関連企業は、プロジェクトマネジメントや実際の解体作業、産業廃棄物管理、分析技術の蓄積等と責任を分担しています。CEAは、公共事業体的性格のフランス政府機関で、軍需・民需を問わずに原子力の開発応用を推進する政府機関で、職員数は研究者・技術者・事務職あわせて約16,000名で、うち原子力エネルギー分野だけで4,000人だそうです。CEAの年間予算は5億ユーロ、うち3.5億ユーロが外部からの調達コスト、2.6億ユーロが解体作業費だそうです。
 
なお、マルクール地区の核施設は解体作業中ですが、グルノール地区の核施設はサイト全体の廃炉作業が完了し、現在では除染が完了したためグリーンフィールド(放射性物質がない)となっているそうです。写真はマルクール核廃棄物処理施設(ガラス固化施設)の一部です。

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発電用原子炉としては3基(G-1(1956年-1968年)、G-2(1956年-1980年)、G-3(1959年-1984年))、高速増殖炉実験用原子炉のフェニックスが1基、プルトニウム抽出工場UP1が1基、トリチウム製造の原子炉CELESTINが1基が稼働していましたが、現在は稼働を停止し、長期的・計画的に解体作業が進められています。マルクール地区で稼働しているのは、①アタラント(Atalante):高レベル放射性廃棄物の管理に関する研究所、②Melox:MOX燃料の製造工場、③セントラコ(Centraco):放射性廃棄物の処理・調整センターです。現在のマルクール地区では5,000名が勤務しており、うち1,550名がCEA職員です(うち約700名がPh.D等の研究者)。

今回、我々の視察の最大の目的は、解体処理中の原子炉G-1の現物を見て、その解体技術の現場と、作業環境を確認してくることです。 厳重なセキュリティの後、注意事項等の説明を受け、実際に担当者のご案内の下でG-1の施設に入り、廃炉・解体作業中の現場を見せて頂きました(敷地内は撮影不可なので、残念ながら写真はありません)。タイベック・靴カバー・ヘルメットは装着しましたが、マスクは不要でした。以下、その際の説明。
・G-1原子炉本体はサイトから撤去され、別の場所で展示・保存
・原子炉本体が設置されていた部分の放射能汚染されたコンクリート部分等をすべてハツリ処理
・建設当時の図面がきちんとそろっていれば、原子炉そのものの解体作業は手順化できるため、相対的にリスクは低い
・高レベルの放射性廃棄物はガラス固化、それ以下の放射性廃棄物はセメント固化する
・使用済みタイベック・靴カバー等は、放射線量を確認し、一定割合以下であれば焼却処理する
・G-1の解体作業現場は、数μSv/hの空間放射線量。一般作業員であれば200μSv/月が普通
・一般作業員の法定上限の空間放射線量は、100mSv/年
・その他、使用済み燃料プール等の関連施設の撤去にはまだ時間を要する

われわれの視察団体の2名に累積放射線量を計測できるカード式のバッジが付与されました。G-1サイトの入館時はゼロであったものが、30分程度視察後に退館時に計測すると、累積放射線量が0.5μSvとなっていました。誤差はありますが、説明にあった数μSv/hの空間放射線量は大きく違わないようです。

下の写真は、当時のG-1リアクターの前面部分です。現在、この現物がサイトから撤去され、マルクール地区の広報施設の中に現物展示されており、われわれもこの目で見ることができました。原子炉そのものを見ることができたのは、圧倒的な現実感がありました。

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なお、使用済みプルトニウムの再利用のためのプルトニウム抽出についてはラ・アーグ地区にあるUP2、UP3で現在も化学的な抽出は継続されています。また高度濃縮ウランについては、マルクールから北30kmのところにピエールラット地区で実施されています。

写真は、マルクール核廃棄物処理施設の副所長さんです。施設の概要を説明頂きました。廃炉にあたっては透明性確保が最重要であり、また事故があったときは徹底的に調査する責任があるとおっしゃていました。また廃炉過程のさまざまな事象から知見・経験を蓄積し、フィードバックすることが重要だそうです。こちらでも当初、廃炉作業は数年で完了を見込んでいた作業でも、結局10年以上要したものもあるそうです。原子炉そのものの解体作業は相対的にリスクは低いと考えているが、福島第一原発の廃炉は単純な廃炉作業ではなく、再処理工場の解体に近く、高速増殖炉フェニックスの解体などよりも、相当リスクは高いと考えているそうです。CEAでも予算削減傾向にあることから、コスト削減や作業期間の短縮が課題とされ、技術的には以下の分野に力を入れているそうです。
・地図情報・地理統計学
・非破壊的ガンマ線測定
・ロボット技術
・レーザーカッティング(水面下を含む)
・3Dシミュレーション
・セキュリティ対策
・コスト予測

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福島第一原発の廃炉にあたっていくつかアドバイスをいただきました。
・フランスCEAがこれまで手がけてきた原子炉の廃炉事例は、実際の所要期間やコスト等が参考になるはず。高放射能によりアクセスが困難であることを考慮すれば、数10億ユーロ(数千から1兆円以上)以上を見込んで置く必要があるのではないか
・まずは、現場の現状把握と分析が必要。現場の3D図面を作成する必要があるし、さまざまな測定ツールが必要になる。ガンマ線カメラやアルファ線カメラの開発が必要
・次に、廃炉のシナリオ計画策定が必要。どこまで人間もしくは機械が作業するかシミュレーションする。放射線を避けるには、①短時間で作業する、②なんらかの方法(ジェル・泡)で放射線を下げる、③機械に作業してもらうの3つしか方法がない。高放射線下では遠隔操作が前提。 
・CEAが自ら多数の研究者・技術者・作業員を抱えて廃炉・研究開発をするのに対し、日本のJAEA(独立行政法人日本原子力研究開発機構)の組織体制や役割が違うようなので、フランスのやり方そのままは使えないだろう。

G-1サイト見学後には、CEAの幹部とランチミーティング。写真はCEA戦略統括本部(パリ本部)から来てもらって対応いただいた、Christine Georgesさんです。
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マルクール原発に隣接した敷地の外には、「VISIATOME」という情報公開・開放施設が2005年から公開されており、年間約2.5万人が訪れています(うち6,000人が学校の生徒)。300人の収容規模を持ち、3,000回ものガイドツアーが企画され、個別の訪問も受入れています。残念ですが、今回の視察の行程には入っていなかったので見れませんでした。

<VISIATOMEについては、コチラ>
http://www.visiatome.com/index.php?pagendx=1341

帰りには、バスで数分程度のところにあるワイン醸造所に立ち寄りました。地元のワイン農家が出資して作った醸造協同組合が所有・運営しているそうです。原発施設のすぐそばにワインのような、農産物・嗜好品の生産が日常的に行なわれていることを初めて知りました。それも赤ワインで有名な「コート・デュ・ローヌ」です。ブランドは、「Chusclan」。Cote de Rhone地方の真っ只中にある場所です。750mlのボトルが4ユーロから20ユーロまで、比較的お求めやすい価格です。Cote de Rhoneといっても、赤だけでなく、白・ロゼもありました。
http://www.wine-searcher.com/regions-cotes+du+rhone+villages+chusclan

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日本のように地元自治体や地元企業・地元住民に対して、電源三法に基づく原発立地補助金のような金銭的なバラマキはないそうです。そうはいっても隣人の重要な経済活動である地元の農家のワイン醸造を、非金銭的に支援していくスタンスはあるとのこと。

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広い醸造所。酔ってしまいそうなワイン臭で充満しています。厳しい麹菌の育成や、温度湿度の管理をしなければならない日本酒製造と比べると、無造作なように見えます。上からブドウを入れると、下のコックからワインが出てくるという仕組みのようです。

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注)上記写真は、すべて施設内で撮影許可されたもの、もしくは配布された広報パンフレット記載のものです。