いわきの医療・まちづくり公開シンポジウムの開催にあたり、作家であり思想家でもある東浩紀氏にご寄稿いただきました。東氏とスタディツアーもご一緒させていただいたことがあります。「福島第一原発観光地化計画」という刺激的なタイトルの著書を出され、福島の20年後の将来の姿を提言いただいています。

<旧警戒区域に行ってみっぺ ゲンロン・ふたば商工株式会社ジョイント開催は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/39441989.html
55

 福島第一原発観光地化計画は、東京在住の作家のわたし、東浩紀が中心となって進めている一種の「呼びかけ」です。標題のとおり、二〇一一年の三月に深刻な事故を起こした福島第一原子力発電所の跡地と周辺地域を、後世のために「観光地化」するべきだ、という提言を行っています。被災地ほか、チェルノブイリへの取材も行い、昨年『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』『福島第一原発観光地化計画』の二冊を出版いたしました。 原発跡地を「観光地化」する、という表現に驚かれるかたもいると思います。けれどもここでは「観光地化」という言葉を、事故跡地を観光客へ開放し、だれもが見ることができる、見たいと思う場所にするという意味で用いています。
 
 わたしたち日本人は、福島第一原発事故についての情報を、世界に向けて発信し、後世にきちんと残す責務を負っています。そのためには、研究者やジャーナリストだけではなく、一般市民の見学を国内外から積極的に受け入れるべきだと考えます。多くのひとが実際に福島県の浜通り地域を訪れること、それは地元の経済的復興だけではなく、無用な風評被害を阻止するのにも役立ちます。そして一般市民の見学を受け入れるとは、訪問客の誘致を、なんらかの意味での「観光地化」を意味します。ちょうど六九年前、同じように放射能で汚染された広島のようにです。原爆ドームは、いまや世界遺産に登録され、国内外から多くの観光客を集めています。原爆投下は広島市民にとって大きな悲劇でしたが、彼らはその悲劇を忘れるのではなく、記憶のうえに新しい町を築くことを選択しました。
 
 事故跡地の見学などできるわけがない、と反論されるかもしれません。しかし、放射線の危険は被曝時間と関係し、また今後除染も進むので、事故跡地への短時間の滞在は将来的には十分可能だと思われます。実際にわたしたちは、福島第一原発の二五年前、同じように事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所へ視察に行ってまいりました。同原発と周辺地域は、じつはいま観光客を積極的に受け入れており、またその状況は記憶の継承に大きな役割を果たしています。
 
 日本では、観光というと娯楽中心の「物見遊山」の語感が強いと思います。しかし、語源の「ツーリズム」には巡礼という意味もあります。また近年の観光学では、戦争や災害など、悲劇の痕跡を巡る「ダークツーリズム」の現象も注目されています。上記の広島をはじめ、多くの戦争遺構や災害遺構を抱える日本は、じつはダークツーリズムの先進国でもあります。原爆ドームは、広島の重要な観光資源であると同時に、核兵器の残酷さを伝える貴重な遺産にもなっています。観光は娯楽であるとともに、学びのきっかけにもなります。
 
 二〇一一年に大きな苦しみを経験した福島県浜通り地域が、あの事故を「なかった」ことにするのではなく、あの事故の「うえ」にもういちど新しいふるさとのすがたを構築するために、原発事故跡地の「観光地化」という逆転の発想は大きな示唆を与えると確信しています。ぜひ提案をご検討ください。

東浩紀氏
1971年東京生まれ。作家、思想家。株式会社ゲンロン代表。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。『動物化するポストモダン』『一般意志2.0』『弱いつながり』など著書多数。サントリー学芸賞、三島由紀夫賞受賞。

出典:いわきの医療・まちづくり公開シンポジウム ご寄稿集 
140715_シンポジウムチラシ