いわきの医療・まちづくり公開シンポジウムの開催にあたり、競輪選手中でも最高峰のS級S班選手、新田祐大氏から「自転車とまちづくりにかける思い」と題して、ご寄稿いただきました。基調講演当日には、同じくS級S班選手の長塚智弘選手と一緒にご登壇頂きました。新田祐大選手は、1986年生まれの福島県会津若松市出身。自転車競技の世界では日本強化選手に指定されており、ロンドン五輪出場経験を糧に、昨年は年内優勝10回、松阪バンクレコード更新と結果を残し、今年は現在日本ランキング6位です。

長塚智広選手は、1978年生まれの茨城県取手市出身。世界トップクラスのロケットダッシュで、2000年のシドニーオリンピック出場、2004年のアテネオリンピックのチームスプリントでは、銀メダルを獲得しました。早稲田大学スポーツ科学研究科トップスポーツマネジメントコースの社会人修士課程を卒業し、また株入門書も出版されるなど、様々な才能を持つ現役アスリートです。被災地の少年少女を対象とした、トップアスリートによる「バスケットボールクリニック」や「陸上クリニック」を開催したSS11のメンバーであり、昨年いわき平競輪で2回開催された「チャリーズ杯」というチャリティレースの立役者でもあります。

新田長塚選手

 福島県出身である私は、二〇〇五年より競輪選手としていわき平競輪場を中心として全国の競輪場にてレースに参戦する傍ら、自転車競技の日本代表としてロンドン五輪に出場し、現在は、二年後のリオ五輪でのメダル獲得を目指し、日々精進しております。今回は、愛着のあるいわき市にて、日常的に多くの人が利用しており、ファッション性の高さや近年のエコブームとしても大変注目されている〝自転車〟についてお話出来ますこと大変光栄です。
 
 何故ならば、環境に負荷を掛けず、化石燃料も使わず、健康に資する手段である<自転車>の魅力を届けて、子供からお年寄りまで多様に利用してほしいと思っていたからです。勿論、私のように競技者として志す未来のオリンピアンが地元福島から誕生してくれることも大変嬉しい限りですが、それだけではなく、子供の体力低下対策や子育て支援の一環として、また生活習慣病予防や足腰の強化といった健康増進が医療費削減などの効果にも繋がると期待されているのが、自転車のまちづくりです。

 私が、自転車の普及を図りたいと強く思ったのは、二〇一二年に出場したロンドン五輪での一戦がきっかけです。オランダやデンマークと並び自転車先進国であるロンドンでは、自転車は最も重要な移動手段であるとされ、車よりも優先する考え方を取り、これが「自転車革命」と言われています。地域の住民にもそれが根付いて、地元開催の五輪では、自転車競技会場は連日超満員で他国の観戦者はほとんど入れない状態でした。
その中で、叙勲制度においてナイトの称号が与えられている英国の自転車選手、クリス・ホイ選手と対戦した際です。選手の名前がコールされると同時に、会場には地鳴りのように英国コールが響き渡り、その声援を背に受け、クリス・ホイ選手は見事金メダルを獲得しました。私にとりましては、大変悔しい思いをした一戦となりましたが、国民が一体となり、自転車が国技として認められている、それを肌で感じた試合でした。

 最近では、日本でも自転車のまちづくりに盛んな都市が増えてきたように感じますが、自然豊かで、適度な高低差といった魅力的な地形であり、いわき競輪場やサイクリングロードといった環境も整備されているいわき市から自転車利用が地域の皆さんに根付くことで、ブームに繋がり、自転車ツアーやレース、サイクル事業の発端となり、環境、健康、経済、産業など様々な面で活用されていくことで、二〇二〇年東京五輪での日本選手団活躍の相乗効果に繋げていけたらと切に願っております。自転車のまちづくりの先進都市として、いわき市から発信される新たな自転車文化に期待しながら、老若男女問わず一人でも多くの自転車利用促進に向けて、私自身も競技者として、自らのパフォーマンスで広めていきたいと考えております。

新田長塚選手3

新田祐大氏
日本競輪選手会福島支部所属第90期S級S班 競輪選手 
自転車競技 日本強化指定選手 (2002年~現在)
ロンドン五輪出場経験を糧に、昨年は年内優勝10回、松阪バンクレコード更新(10’6)と結果を残し、今年は現在ランキング6位

出典:いわきの医療・まちづくり公開シンポジウム ご寄稿集