全国屈指の東大合格者数を誇る超進学校開成高校を数年にわたって追い続けた、ルポルタージュです。常識を逸脱したユニークな野球部を、監督と選手たちへのインタビューを元に紹介しています。読むまで知らなかったのですが、テレビドラマ化もされているとのこと。

普通に考えたら、練習施設も整い、圧倒的な練習時間を費やしている強豪校に勝てるわけがありません。グランドを使って練習できるのは1週間にわずか1回だけ。その日に雨が降るとその週はグランド練習はなくなってしまい、定期テストの週とその前の週も部活禁止となるので、1ヶ月近く間が空くことすらあるそうです。そんなんで他校に勝てるの?

それでも「開成が甲子園?ありえないでしょう?!」と馬鹿にしてはなりません。実際、多数の学校が参加する東京大会において最高でベスト16。昨年の夏もベスト32。その秘密は、10点取られても15点取ってドサクサ紛れに勝つのが、開成野球なんだそうです。守備より打撃、サインプレーなし、送りバントもしない。守備練習はどんなにやったところでエラーするときはするからほどほどに。ピッチャーはストライクが入るのが条件。活路を見出したのは打撃。守備は積み重ねだが、打撃はコツをつかむと短期間で一気に上達する。そして点が入る。そのために、とにかく思いっきりバットを振る。そしてどさくさにまぎれて大量点を狙う。だから、勝つにせよ負けるにせよ、やたらコールドゲームが多くなる。このような徹底的な合理主義のもとに成立した弱いチームが強豪校相手にどう戦うのかという、常識を覆す大胆なセオリーは、感動的ですらあり、そこそこに強い。

開成高校野球部青木秀憲監督いわく、「一般的な野球のセオリーは、拮抗する高いレベルのチーム同士が対戦する際に通用するものなんです。同じことをしていたらウチは絶対に勝てない。普通にやったら勝てるわけがないんです」

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「勝負以前に、(相手チームに)失礼があってはならない」「野球しようとするな」「一生懸命投げるな」「大雑把に振れ」「グラウンドでやるのは『練習』ではない」「何がなんでもヒットじゃなくて、何がなんでも振るぞ!」という謎のような監督の檄を生徒は理解しようとし、それぞれが自分の解釈を持ちます。
 
野球部の選手も、3年生になると東大を受験に専念し、進学するそうです。彼らはおそらく幼い時から勉強においては優秀な子として育てられてきたのでしょう。彼らは高校野球部で「自分たちは弱い」ということを改めて認識し、しかもそれを真剣に克服しようとしています。彼らが社会にでていってから、野球部で育んだしなやかさとしたたかさは必ずや、大きくプラスになるだろうという確証に近いものを感じました。