全国有数の進学校として知られる開成中学校・高校を運営する「開成学園」の最大のイベント、開成運動会に行ってきました。例年5月の第2日曜日に行われることになっていますが、昨年はアクシデントで外部公開が中止となり、今年は2年ぶりに公開されました。昨年の文化祭に引き続いての開成訪問です。

<開成 文化祭は、コチラ>
http://www.mikito.biz/archives/32402231.html

開門は6:30、開会式は7:10開始です。西日暮里の開成学園第二グラウンドに、中1から高3まで2,000人を超える男子生徒が、紫、白、青、緑、橙、黄、赤、黒の8組に分かれて一同に集結します。高校は8クラスあるので、クラスごとの色になりますが、中学は各クラスばらばらに縦割りで8組に振り当てられます。その特徴は、生徒による運営される「運動会準備委員会」、「運動会審判団」、「運動会審議会」のもと、高3が中心となって、つくり上げていることです。早朝に、8色の旗、団長、組責らが整列する姿は美しい。
 
59

この運動会は、生徒だけで運営され、実際、先生方の役割は警備くらいで、ほとんどタッチしないそうです。そのかわり生徒がかける熱意は、尋常ではありません。はっきりいって、常軌を逸しています。毎年6月には、運動会審議会で、今年の運動会の反省を行い、来年の応援団長および組責任者を決める、つまり、前の運動会が終わった直後から来年の準備が始めるとのこと、準備期間を丸一年とっているわけです。だから?高校2年から高校3年にかけてはクラス替えがないのかも。また、高校生は一クラス50人ですが、これは高2、高3で行われる「棒倒し」に最低限必要な人数で組まれているためらしい。そう考えると、開成学園って、運動会開催のために存在しているのでしょう(冗談)。でも実はこれは、柳澤校長もその著書のなかで、なかば半分、認めています。
 
運動会当日に飾られる7m×9m程のアーチ(巨大な絵)が作成されます。鯨だとか、龍だとか、不死鳥、天馬?等の強そうな絵が、生徒自身の手で書かれています。美術部員が活躍するらしい。不思議な、かつ巨大な絵が8枚も、運動場をぐるりと取り囲みます。このスタイルは、相当昔から変っていないようで、昭和36年の映像にも残ってました。

<昭和36年9月16日_開成高校運動会>
https://www.youtube.com/watch?v=j7aRiIXJCy8
15

アーチの前はひな壇状になっていて、チームメンバーが交代で応援します。自分たちのチームの出番のときは、エールの他、典型的な応援として「ぶっとばせ」等の大合唱となります。

<ぶっとばせ節は、コチラ>
http://goo.gl/9EZjlw
26

アーチの裏はこんな感じ。本格的な足場が組まれているので、数十人が乗っても大丈夫なようです。毎年、チームTシャツ(名前の刺繍入り)を各チームのカラーを基調に、デザインを変えて作っています。

16

「アーチ賞」や「エール賞」という形で、このアーチの出来不出来や、エール・入場時の行進も、観客者の投票により得点化され、チーム戦のスコアに反映されるので、本気での絵の制作、行進の練習となるわけです。なるほど、生徒が自主的に運営すると、どこで力を入れるか抜くかが本質的にわかっているので、どうやれば大会を盛り上げるインセンティブになるか、よくわかってるなあ。

13

進行も細かい点まで工夫されていて、感心しました。大掲示板には、プログラムだけでなく、現在の時刻・進行の遅れ(何分予定より遅れているか)・現在行われている競技と、対戦チーム・8組の現在のスコアと順位が、リアルタイム(10分単位)で表示され、今何の競技をどのチームが対戦しているか、現在どのチームがトップなのかわかりやすく、初めての観戦でしたが楽しめました。

21

8組もあるので、どの競技でどのチームが何位だったかが、一目でわかるように一覧表になっています。もちろん観客だけでなく、生徒も競技の結果がリアルタイムで分ります。

31

点数表示や、色の表示は、すべて生徒による人力です。大掲示板は、足場が組まれていて、その裏手で運動会実行委員による、手動掲示板(かつての野球の掲示板がそうでした)です。これは人手がかかって、大変だなあ。実行委員の裏方の努力が忍ばれます。

57

各クラスはのエールは毎年見直すことになっているようですが、実際には過去の先輩が作ったエール(例えば黄組は、第69代が作ったエールを使った)を使うようです。すなわち70年前の先輩が作詞・作曲したのを今でも引き継いでいるということですね。(訂正:エールは毎年、いちから作っているそうです。開成の運動会は創立時からある訳ではなく、69代黄組も去年度の高3だそうです)

 <参考:139th開成学園大運動会エール全曲 feat.Miku>
http://www.nicovideo.jp/watch/sm10681375
02

各組の運営は高3に委ねられ、下級生の指導も高3が行います。運動会練習は、すべて高3の責任で、高3の指導の下、放課後だけで行い、体育などの授業中には一切やらないそうです。東大合格することよりも運動会の優勝のほうが、開成生にとって誇れることだと、1993年のナイスデイでインタビューを受けた生徒は語ってました。

<開成学園 男涙の運動会 (1993年のTV番組おはようナイスデイより)>
https://www.youtube.com/watch?v=ev3KX5RNxsE

そんな運動会ですが、昨年は運動会の中止を求める脅迫文が届いて、一般公開が中止になりました。開成の敷地内のポストに入れられていた手書きの1枚の書面に「運動会を中止しなさい。さもなくば、開成生の肉を召し上がっていただく」などと記されていたそうです。結局、生徒の家族だけに入場を制限して運動会を開催することになりました。OBや受験生はもちろん、近隣住民の方も楽しみにしていたそうで、残念でした。逆に言えば、脅迫状が出るほどの社会的イベントともいえ、それだけ注目されていることの証でもあります。

20130513112704
出典:平成25年5月12日の産経新聞

今年のプログラムを見ると、「俵取り」「馬上鉢巻取り(騎馬戦の簡易版)」「騎馬戦」と、プロテクター着用義務の危険な競技が多いです。実際、競技中にしばしば、ケガもしくは強打して動けなくなった生徒を運び出すのを目にしました。このプログラムには各種競技の内容だけでなく、ルール・見所・用語集が収録されていて、読んでいて、とても楽しい。

10
 
プロテクターがなくヘッドギアのみの「棒倒し」では、棒を支える守る側の男子のかたまりの中に、攻める側の男子がほぼ丸腰でダイブします。そして守る側はその足をつかんで「引っぺがし」ます。そんな闘志むき出しの若者の姿は、秀才ってモヤシっ子で、勉強ばっかりのイメージとは大分違います。見ると、良いからだつきの子が多い。一生懸命で何かに打ち込むと、体もしまってくるのかもしれません。非常に素直でまっすぐに学習をつきつめていく生徒は、方向性を与えてあげると、これまたまっすぐに打ち込むのかもしれません。
 
56
 
 <今年の棒倒しの様子は、コチラ>
http://goo.gl/B1DUL5
12

驚いたのが、「土下座」です。自分の競技で負けるとチームの元へ返り、全員がグラウンドに土下座して仲間に詫びます。仲間は「お前ら、がんばっただろ!胸を張れ!」と声をかけ、一人ひとりに手をかけて揺り起こす。負けて帰ってきたメンバーは本当に泣いています。何割かは肩をふるわせて号泣してました。

12

逆に優勝すると、歓喜爆発です。各種目で優勝したチームは、チーム旗をもって一周を凱旋することができます。(優勝した場合の凱旋のルールは、1周まで。正面席のラインを一度だけ通過することができる、という細かいルールを、定めているところも開成らしい)。

04
 
休憩のランチは、学生食堂が営業していたので、そこでいただきました。基本的に開成の中学生はお弁当持参で、食堂は利用禁止。高校生からの利用になります。もっとも、パン屋やお弁当屋が出張販売してくれるので、不便は感じないかも。ポークカレー300円、カツ丼380円でした。

03

簡素なつくりの学生食堂でした。

14

朝7:10に始まって、終わるのは夕方17:10。丸一日中、10時間もかけて、運動会をやってました。開成の高3年生はこれが終わると一気に大学受験体制に向かうとのこと。開成は高校が1学年8クラスです。その8クラスがそれぞれ「赤・青・黄・緑・白・黒・橙・紫」の8つの組に分かれて戦います。中高一貫校なので、中学生と高校生が縦割りで同じ組になります。中1から高3までの6学年が、一つの組になって、戦うわけです。同じチームであっても入学したばかりの中学1年生と高校3年生では、大人と子どもの違いがあります。開成に入学してくるような子ども達は、これまでおそらく真面目に勉強するタイプのはずで、泥臭い男の縦社会なんて一度も経験した事がない。そんな新1年生が入学後1ヶ月で、大人に見える高3生から厳しい指導を受けるわけで、相当のカルチャーショックが予想できます。しかし6年後には、今度は立場が逆転し、後輩を指導し、チームをまとめあげ、他チームからの勝利を目指す集団を作り上げることに邁進します。江戸時代の藩校や昭和の青年団の役割に似ていると感じました。これこそが、リーダーシップ育成の原形、それが開成学園がやろうとしていることのような気がします。