SEG(エスイージー)の主催者、古川昭夫氏の著書ということで興味をもちました。SEG(Scientific Education Group)は、理数系科目を中心とした中学生・高校生対象とし少数グループ形式の学習塾です。SEGの特徴は、何と言っても都内の優秀な生徒を魅了し、実際に支持され集められていること。ここから毎年100名以上の東大合格者を出しています。某国立高校の東大合格者数が多いのは、SEGへの通塾率が高いから、という噂もあります。

古川昭夫氏自身は、数学者。しかし英語での数学の教育方法を研究している過程で、使える英語の必要性に気づき、自身の多読を始めて英語力を伸ばしてきた経験、さらには多読学会をはじめとした学識を基に、英語学習法としての「多読」の理念、方法、効果などについて、説明しています。高校1年生でTOEIC850点を得た生徒もおり、また800点前後にまで伸ばす生徒はたくさんいるそうです。

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実は、日本近代文学を代表する小説を生み出した文豪、夏目漱石も「現代読書法」という著書で、多読の有用性を説いているそうです。「英語を修むる青年はある程度まで治めたら辞書を引かないで無茶苦茶に英書をたくさん読むが良い。少し分らない節があってそこは飛ばして読んでいってもドシドシと読書していくと終いには分るようになる、また前後の関係でも了解せられる、それでも分らないのは滅多に出ない文字である。要するに英語を学ぶものは日本人がちょうど国語を学ぶような状態に自然的に習慣によってやるがよい。すなわち幾遍となく繰り返し繰り返しするがよい。ちと極端な話のようだが、これも自然の方法であるから手当たり次第読んでいくがよかろう」。

実は多読を英語学習法として強く推奨しながらも、「多読さえやっていれば、英語の全ての分野が上達するわけではない」と明示し、文法や単語帳での学習、辞書を引くことの効用も認めています。そして、多読に対する批判も紹介しています。
・ネイティブスピーカーの子供が読む英語の本であれば、多読が出来るのはわかるけれど、やさしい英文ばかり読んでいては、いつまでたっても英語力は伸びないのでは?
・辞書を引かなければ、わからない単語は永遠にわからないままでは?
・文法や語彙を勉強しないで、多読だけで英語は本当に身に付くのだろうか?
・英語を身につけるには、どのくらいたくさん読んだらいいのか?

語彙教育の権威によれば、多読を通じて新しい語彙を身につけるためには、未知語が全体の5%以下の本でなければならないそうです。つまり未知語が全体の5%以下であれば、辞書を引かなくても前後関係から、あるていどそのその言葉の意味を高い確率で類推できるそうです。これが人それぞれが異なる、読むべき本のレベルの決定係数になります。

非常に興味深かったのは、実証データから、英語力の伸びの公式をオリジナルで編み出していることです(さすが、数学者!)。それは、
英語の伸び=(読書量)×(理解度)の4乗 だそうです。
そしてこの公式を実際に自らのSEG生徒の学力の推移をサンプル調査し、概ね実証できたそうです。しかし限られた時間で読書量を増やせば、理解度は落ちるという相反する関係にあります。この公式によって、限られた勉強時間を費消しつつ、英語力を伸ばすためには、以下の結論が導き出されます。
①読書語数を増やす(一定時間内の読書速度を上げる)
②理解度を上げる(最低でも70%の理解で読む)
すなわち、理解度100%にこだわらず、未知語が20語中1語程度の本を使って、読書スピードを維持しつつ、70%の理解をキープしながら、できるだけ多くの語数を読むようにするということが、最適の戦略ということになります。

SEG「多読の3原則」は、含蓄が深く、我慢して苦行に耐えるのが学習ではないということです。同時に学習記録帳をつけ、300万語を目標に記録を続けるのはユニークです。これにより自分が英語学習のどの地点にだいたいいるのかが把握でき、そのやり方があっているかどうかも修正できるからです。
①辞書を引かずに楽しめる本を読む
②わかるところをつなげて読む
③自分が面白いと思う本を選んで読む

しかし、実際に多読を取り入れても自発的に読む生徒は非常に少ない。生徒に多読をさせるには、教師にちょっと変った能力が必要です。すなわち、英語の本を読む習慣のない生徒一人一人に適切なレベル・内容の本を紹介し、励ましながら自発的に読むところまで持って行くことが「多読指導」だそうです。それには時間がかかるし、そこまで生徒のモチベーションを下げずに多読を続けさせることが教師の腕の見せ所だそうです。それを実践している(本当は数学・理科がメインのはずの)SEG。こんな英語教育ができる教育人材が増えれば日本の若者にとっても、産業界にとってもプラスになるのではと思わせるものがありました。