イギリス生まれの経済学者の代表的存在であるジョン・メイナード・ケインズ。雇用の安定を図るために、政府は金融政策と財政政策を用いて、有効需要を創出したり調整したりしなければならないとの主張は、現在の経済理論の基礎となっています。特に大不況下では、金融政策ではなく財政支出政策が最も効果があると主張した「ケインズ理論」は有名です。

ケインズ経済学の根幹を成しているのは、有効需要の原理です。簡単にいえば「供給量が需要量によって制約される」というもの。この原理から有効需要の政策的なコントロールによって、総需要管理政策(ケインズ政策)が生まれました。これはケインズ革命ともいわれています。もし、このケインズがいわき市の経済政策を担当したら、どうするでしょう。

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現在、いわき市の経済は、業界によってまだら模様です。平ハローワークによれば、全体の求人倍率は2倍程度と、1人の求職者に対して2つの企業がいる、いわゆる買い手市場に見えます。ただしこれには、求職者には、ハローワークに訪れない人(長期避難者や、精神賠償を受給中の方の一部が、さまざまな理由で求職活動を行っていないといわれています)が求職者にカウントされないという点を見過ごせません。事務系だけの求人をみれば、求人倍率は0.5倍程度と、震災前とあまり変わっていない、というかオフィスワークを求める層に対する需要は、非常に弱いといわざるを得ません。

一方、建設業界の求人倍率は5倍程度と、尋常ではない倍率となっています。これは市内の災害公営住宅1,500戸、県の公営住宅1,700戸の建設とともに、市内外の膨大な除染作業、福島第一原発の作業等、建設関連の需要が史上最大規模で発生しており、これは単年度で終わるものでなく、少なくとも数年分の需要は途切れなく継続していくことが予想できるからです。

現代のケインズ理論によれば、政府支出を増やすことによる景気対策の効果はあまりないということになっています。なぜなら政府支出の増加で増えた人々の所得は、低い利子率のもとではすべて貨幣のまま持たれてしまうので、消費需要の増加として広がっていくことはないからです。これは、まさにいわき市の状況にあてはまっています。史上最大のいわき市の一般会計予算額に加えて、原発の精神賠償受給対象者が市内に多数いらっしゃいます。現在のところ、(多少は飲食で費消しますが)多くの貨幣は金融機関への預金という形で退蔵されています(だから県内の金融機関の預金残高は、震災以降、激増しています)。

この現状でケインズ理論に従うなら、これ以上の需要喚起政策(少なくとも建設関連は)は、完全雇用・GDPの増大を目指す経済政策として正しくないことになります。雑駁に言えば、新規のハコモノ建設をこれ以上進めるのは誤った経済政策ということです。ケインズ経済によれば好況期に過大な投資がなされれば、やがて投資が落ち込み、資本のストック調整(要は不況)が行われます。政府がハコモノを建設するなら、建設好況の現時点でなく、経済の波がボトムとなる時期に、需要を喚起する目的で行うべきなのです。

では、もしジョン・メイナード・ケインズがいわき市の経済政策を担当したら、何をするでしょうか。過去を踏まえて、将来世代に役に立つものを準備していくことでしょう。例を挙げれば、人的資本を増大させることや、これまで整備してきた老朽インフラを集約していくこと、新規インフラ整備をなるたけ先送りにすることだと思います。大震災を経験し、政治家は将来世代に何を残せるか、何を残さないかを長期的・大局的視点で考え、行動しなくてはならないと思います。