海陽学園の入試報告会に参加しました。全国でも珍しい全寮制、かつ新設校にもかかわらず、新設校ながら第1期生の東大合格者は13人(卒業生数101人ですから、いきなり13%!)を輩出し、教育界を驚愕させた学校です。東京開催にもかかわらず、100名近くの父兄生徒が参加していました。

当日は、卒業生2名(東北大学法学部と早稲田大学在学中、両名とも好青年!)が来てくれて、海陽学園の実生活を、良くも悪くも正直に話してくれました。
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海陽中等教育学校は、愛知県蒲郡市にある私立の全寮制の中高一貫制男子校です。2006年4月開校の新設校ですが、その特徴はトヨタ自動車やJR東海、中部電力などの中部地方の産業界から約80社から寄付を集め設立されていることです。理事長はトヨタ自動車名誉会長の豊田章一郎氏、校長は東京大学名誉教授、産総研出身の中島尚正氏です。新設校ながら第1期生の東大合格者は13人(卒業生数101人ですから、いきなり13%!)を輩出し、教育界を驚愕させました。

2006年の開校以来、一時期、生徒募集に苦戦していた時期はあったものの、5年ほど前から評判ともに、出願者の実績数を増やしてきています。なお、実出願者とは複数回受験の重複を除いた受験人数です。以前から入寮できる全生徒は100-120名定員で変わっていませんから、以前は合格した生徒のほとんどが入学していたのに、近年は生徒の他校(海陽よりレベルの高い学校との併願をし、かつそちらに合格していること)受験が一般化していることを裏付けています。

<海陽学園の出願者数推移 単位:人>
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イギリスの名門パブリックスクールであるイートン校をモデルとしており、イートン校では「ハウスマスター(HM)」がいますが、海陽では、HMに加え「フロアマスター(FM)」が1年ごとに、日本を代表する出資企業から派遣されてくるそうです。彼らも、生徒と一緒に寮生活を送り1年間を共にします。FMは20代の主に若手社員であり、生徒たちの兄貴分的存在。HMはさらに年齢が上で50才代、いわばハウスの父親的存在ともいうべきでしょうか。ひとつのハウスにつき生徒が約60人、それに対して、FMが3人、HMが1人つきます。

1学年は120名(1クラス30名×4クラス)の少人数教育、、英語・国語・数学の主要3教科は一般的な公立学校の2倍の授業を実施するそうです。入学生徒は全国から集まっています。もちろん学校自体が東海地方にあり、東海の企業が出資していることもあることから、東海地方の学生が5割近いです。逆にいえば、過半がそれ以外であり、関東・関西以遠からも学生が集まっていることに驚きます。

<生徒の出身地別割合:単位%>

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卒業生が正直に語ってくれた、いくつかの小話を紹介します。

・閉鎖空間
寮の中ではマンガやゲームはいっさい禁止。病欠以外の理由で学校を欠席することも禁止。辛くても逃げ出すことができない究極の「閉鎖空間」です。男だけで数百人が共同生活を送るわけですから、個人の価値観はぶつかりますし、ケンカもあります。しかし、「とにかく逃げ出せない」。参加してくれた卒業生によれば、どこかで折り合いを付ける必要があるわけです。何度もそれらを通じて、人間的に成長できたと感じているそうです。

・受験勉強
全国の進学校の多くが大学受験に備えて、高校2年生くらいから予備校に通うケースが多いですが、海陽学園では塾に通うことは(事実上)できません。そもそも最寄り駅の三河大塚駅には大手予備校はないから。ではどうしているか?それを補うのが、夜学習です。部活動後の夕食を終えた生徒たちは着替えを済ませると夜8時からの夜間学習するとのこと。FMに個人的にわからないところを教えてもらったり、FMによるキャリア相談など、自分も受験をくぐり抜けてきたFMによる支援はFMが敷地内に住んでいるからこその技です。

・学費
年間約280万円。支払総額だけ見ると日本一、学費が髙いらしい。もっともこれは、寮費・食費・光熱費などすべての生活費が含まれています。特徴的なのは、1学年100名のうち、20名は特別給費生といって、すべての学費が無料となっていることです。この特別給費生の選抜入試の偏差値は、慶応や早稲田の中等部入試より上位です。実際に、灘や開成の腕試しとしての受験も多く、実際そういった入学者もいるそうです。
 
・愛校心
青春の6年間を昼も夜も過ごす場所ですから、必然的に生徒たちの愛校心も強くなります。夏休み・冬休みの長期休暇は実家に帰省しますが、逆にいえばそれ以外で、週末に実家に戻る子はほとんどいないそうです。それは東海地方出身の子でも変わらない。長期休みも、全国から来ている同級生の実家に泊まりにいったりして、実家に帰らない生徒も多いそう。親とすれば、ちょっと寂しいかもしれませんが、確実に大人の男になって、生徒たちは巣立っていくそうです。実際に話してくれた卒業生2人は、大学進学後、自らのキャリアプランを模索中で、海外留学や社会人となった姿を描きながら、大学生生活を送っていることが、ひしひしと分りました。
 
・身の回りのこと
寮なのである程度寮母さんがフォローしてくれると思いきや、自分の洗濯物は自分で、ランドリーで行わなければならないとのこと。ランドリーの数にも限りがあるので、入学当初は先輩方に気を遣って順番待ちをしているあまり、深夜に起き出して洗濯しなければならなかった思い出等を話してくれました。(学校にとっても)辛い体験をよくぞ話してくれたと思います。

・ドロップアウト
当時の入学生約100名のうち、約1割にあたる約10名の同期生が卒業まで在籍せず、退学、いわゆるドロップアウトしてしまったそうです。閉鎖空間に耐えられない、授業についていけない等ざまざまな理由があります。この1割を多いと見るか、一定程度は仕方ないと見るか。参加してくれた卒業生2名の話では、「残念だけれど、仕方ない」とのこと。

・フロアマスター
海陽の肝はこのフロアマスター制度にかかっているのではないか、と個人的には感じました。すなわち、トヨタ・JR東海・中部電力などの企業から派遣された若手社員が、各ハウスの各フロアに1人ずつ住み多感な時期の生徒達と交流を深めたり相談に乗ったりすることです。生徒はフロアマスターに日誌を毎日提出し、その日の出来事や、相談に乗って欲しいことなどを書き、フロアマスターは返事を書くそうです。また定期的にコーチングと呼ばれる面談も生徒対象に行っているそうです。そこでは単に勉強や生活だけでなく、恋愛相談や、人にいえない悩み等もFMが受け止め、相談に乗るということです。FM自体も一人の人間ですし、若手企業人としての責任感もある。彼らが真剣に24時間、向き合ってくれるというのは、ひょっとすると全国何処でもそうそう経験できないことなのではないかと思うのです。そう考えると、卒業生2人が物怖じせずに、当時の経験を語る姿にも納得がいきました。社会人と話すこと、社会の仕組みについて話すことに、気負いがないんです。

海陽学園については、ネガティブな見方をする方もいらっしゃるとは聞いていますが、一方で、その強さの秘密は何がドライバーなのか。「閉鎖空間」だからこそ、たくさんの企業講師招聘や企業訪問を通じて、社会との接点を複数のルートで持つことができ、それが生徒の思考・行動様式に多大な影響を与えていること等、参加してはじめてそれがわかったような気がします。

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注)上記は、入試報告会で説明を受けた範囲の内容で、かつ当方の理解と印象を書いたものです。実際の海陽学園とは、異なる可能性があります。