知人の医師の勧めで、「医療大転換 日本のプライマリ・ケア革命」を読みました。著書の葛西先生は、カナダ家庭医学会認定専門医課程で学び、日本プライマリ・ケア連合学会理事で、現在、福島県立医科大学医学部地域・家庭医療学講座主任教授です。本書を読んで、プライマリ・ケアの幅の広さと、これまでの医療のあり方を変える可能性についての見識を持つことができました。

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・プライマリ・ケアとは、
かかりつけ医。家庭医といわれている領域です。一次医療を担当し、日常的に地域住民の疾病予防に努め、病院に来ない人も含めた地域の健康維持・予防に努める役割だそうです。また必要に応じて他科専門医と連携し、そこで患者が治癒した後も経過を見守る役割。家庭医の特徴として、病気だけに着目するのでなく、患者の生活や家庭の状況などを把握した上で治療を進めるそうです。それには、多部門の知識・技術を持ち、技術・テクニックだけでなく、全人的な医療を提供できる医師が求められます。

・機能
家庭医に関する懇談会報告書(昭和62年4月)によると、以下の機能を持つことだそうです。
1 初診患者に十分対応できること
 ① 疾病の初期段階に的確な対応ができること 
 ② 日常的にみられる疾患や外傷の治療を行う能力を身につけていること 
 ③ 必要に応じ適切な医療機関へ紹介すること 
2 健康相談及び指導を十分に行うこと 
3  医療の継続性を重視すること 
4 総合的・包括的医療を重視するとともに、医療福祉関係者チームの総合調整にあたること 
5 これらの機能を果たす上での適切な技術の水準を維持していること 
6 患者を含めた地域住民との信頼関係を重視すること 
7 家庭など生活背景を把握し、患者に全人的に対応すること 
8 診療についての説明を十分にすること 
9 必要な時いつでも連絡がとれること 
10 医療の地域性を重視すること 

医師としての能力としては、専門家としての基本的臨床能力とともに、 一定程度の他科の臨床能力を持つこととされています。

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・メリット
複数の専門医と連携を取りつつ,患者の治療をトータルに管理(具体的には、各課で処方される5種類の薬×各課の数=膨大な薬の種類、を減らすことで患者の体に対する副作用を軽減)することで、患者の健康に資する
専門医の負担を減らすことで、専門医のスペシャルティをさらに向上させる
予防を第一とすることで、全体的な医療費削減に資する
 
・日本のこれまでのプライマリ・ケア
日本でこれまでプライマリ・ケア医としてのスペシャリティは存在せず、開業医や一般病院の外来などで、一般の内科医、小児科医などによってその役割は果たされてきました。しかし、専門のトレーニングを受けた上での対応でないため、そのサービスレベルは属人的な能力、経験、意欲に負っている面が強いです。患者の健康状態全体を見るジェネラリストを、臓器別のスペシャリストよりも格下に見る雰囲気があるといわれています。

・プライマリ・ケア先進国
日本やアメリカはプライマリ・ケア後進国であり、イギリス,オーストラリア,カナダなどが先進国だそうです。これらの国では,内科,小児科,産婦人科,整形外科,精神科などに該当する疾患の患者の8割以上を、家庭医が治療しているとのこと。家庭医と専門医が連携して働くことで,合併症が減少し,平均寿命が延長し,終末期ケアに対する満足度が向上することなどが臨床研究で証明されているそうです、この効果の背景には,患者の大半を占めるありふれた疾患に家庭医が対応することで、専門医が高度な医療に集中できるといわれています。

・制度としての総合診療医
これまで、18種類の専門医制度がありましたが、2013年に19番目の基本領域の専門医として位置付ける総合的な診療能力を持つ医師として、「総合診療医」が始まりました。その専門医を「総合診療専門医」と呼びます。新人医師に対しては2017年度から研修を開始する予定で、総合診療医で専門医認定を受けようとする者は、医学部卒業後2年間の臨床研修を経て、専門医研修を3年間受けることになるそうです。

今後、日本における総合診療医の議論が深まっていくのだと思うのですが、現在頻発している、救急患者のたらい回し、誤診や医療ミスの放置、無駄な検査や過度の投薬、老人医療の複合的な問題といった日本の医療問題が、プライマリケア家庭医の導入で解決する可能性があるのではないかと感じました。