武雄市図書館は、九州佐賀県にある武雄市の市立図書館です。一地方都市の市立図書館が注目されているのは、その運営が民間、レンタルビデオTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブに委託されているためです。公共図書館とは思えない、洗練された館内と、スターバックスが入居し、自由にお茶を飲みながら本を読める居心地の良い空間を作り出していることで有名です。

IMG_4213

 この図書館構想は、2006年に市長となった樋渡啓祐氏の発案・主導により、CCCの協力を得て実現したものです。樋渡氏は、官僚から故郷の市長に転じた異色の経歴の持ち主です。テレビドラマ『佐賀のがばいばあちゃん』ロケーション撮影の誘致・自治体病院の民間譲渡・市役所内にフェイスブック課やイノシシ課を創設した、新しいアイデアがあり、かつ実行力のある方です。一方、(旧来の慣習にとらわれないため)、守旧勢力からの風当たりは、非常に強いと聞いています
 
<樋渡啓祐氏の市長パンチは、コチラ>
IMG_4219

武雄市立図書館構想は、樋渡市長がトップダウンで決断・実行したものだけに、私どもが訪れたときには市長自らパワーポイントを使って、30分あまり丁寧に説明していただきました。きっかけは、樋渡市長が、カンブリア宮殿というTV番組で、TSUTAYAが建設した、代官山TSUTAYA(代官山T-SITE、書籍・映画・音楽の複合ライフスタイルを発見できる場)の紹介を見て、これこそ、樋渡市長が考える図書館のあるべき姿と一致したことだそうです。

IMG_4204


その一ヶ月後、樋渡市長自ら単身で(随行員とTV取材ぶら下がりはいますが)、アポ無しで、 代官山TSUTAYAの視察に行きました。代官山TSUTAYAが面する旧山手通りで、たまたま(本当に)、カルチュア・コンビニエンス・クラブの増田宗昭社長が道ばたでくつろいでいるのを見つけ、さっそく立ち話をしたそうです(TVで顔を知っていた)。

以下、樋渡市長の説明そのままです。
樋渡「これをぜひ武雄につくって欲しい」
増田「人口5万人なんていうところでは出来ない」
樋渡「いや、もう決めたんだ。代官山TSUTAYAのコンセプトを、武雄市の市立図書館に持ってきたい。ぜひ協力をお願いします」。 
増田「承りました」。
樋渡「・・・本当に、承って良いのですか???」
増田「私も男です。」

どうも、元来増田社長は、文化の創造(カルチュア・コンビニエンス・クラブの創業理念)に、書籍は今後、これまで以上に重要な役割を持つであろうと予想し、またそれは民間ベースで主導するには荷が重いと、従来からお考えがあったようです。そこに、自治体首長から、直接の依頼が舞い込んできたため、まだ先例がないという不確実性はあるものの、話に乗ったということだそうです。

CCCの増田社長には、こういった経験がかつてあります。それはTカードができたときです。当時は従来のTSUTAYAの会員カードが1800万枚ほど発行されていたので、顧客に「どこでポイントが貯まったら嬉しいですか?」ということを聞いてみました。するとガソリンスタンドという声があったので、ENEOS(を展開している現JX日鉱日石エネルギー)へ行って、「TSUTAYA会員はもうすぐ2000万になります。ENEOSカードを懸命に広げていらっしゃいますが、TSUTAYAのお客さまに“ポイントをあげる”と言ってくださるだけで2000万人がお客さんになりますよ」と話したところ、「本当か?」と。で、「本当です」と言った瞬間、当時のENOES渡文明社長が「OK」を出し、それではじまったのがTカードだそうです。面談自体は1回で決まったとのこと。

こうして出来上がった図書館は、年中無休のため、市民が毎回訪れる事前に、図書館の休館日を調べる必要はなくなりました。また開館時間・営業時間は、9時から21時までのため、仕事帰りに立ち寄ることが容易になりました。既存の制度の壁を打ち破ろうとする首長と、ビジネスリスクを負っても創業理念を貫こうとする、ベンチャースピリットを持った、変わった2人の男がいなかったら、今の武雄市図書館は実現しなかったことを、改めて理解しました。

IMG_4232

実は、樋渡市長が市長就任以来、図書館の開館時間の延長や、開館日の拡大に常に取り組んできました。例えば2006年に、それまで18時閉館だったのを、19時まで1時間延長を実現しました。図書館は教育委員会の所管なので、毎回、市長は教育長らと、折衝を重ねてきましたが、各方面から強い抵抗により限界があったそうです。

2012年5月 市議会の承認を得ないまま、株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を指定管理者にすると発表
同年7月 指定管理者選定委員会開催、臨時議会でCCCを指定管理者とする承認
同年8月 CCCとの協定書締結
同年9月 定例議会で各種承認
同年11月 翌年3月31日まで、全面改装工事のため閉館
2013年4月 改装工事完了し、CCCを指定管理者とした運営が開始

上記を見れば、いかにスピード感を持ってコトが運んだか分ります。逆に言えば、既存の進め方に慣れ親しんだ守旧派からは、「オレはそんな話を聞いていない」「根廻し不足だ」「議会軽視だ」等の意見が噴出したそうです。

しかし完成後、利用者アンケートでは、非常に満足している・満足している方の割合が8割にも達し、不満足の方は2割を切っているそうです。またその理由も、(人気により来訪者が増えたため)駐車場が少ない、席数が少ないといった嬉しい悲鳴も含まれるそう。他県からの来訪者や、行政関係者の視察も多いそうで、私が訪れた日には、10組以上の行政視察団が訪れるほどでした。実際、希望する視察団をすべて受入れることは、マンパワー的に困難なため、原則視察受入は、水曜日木曜日に限定し、また視察団は武雄市内に宿泊することを条件に受入れているそうです。このような視察観光?需要を市内に新規発生させたことも、図書館運営成功の副次的効果といえるでしょう。

<試算>行政視察受入のざっくり経済効果
行政視察団10名 × 10団体 * 2回/週 * 52週間 = 延べ人数10,400名
宿泊・飲食支出1万円/人 * 10,400名 = 1億円 

武雄市が図書館改装に要した費用は約4.5億円、TSUTAYAへの指定管理者委託費用が1.2億円/年だそうです。副次的効果だけとってみても、(一概にはいえませんが)非常に良い。それもこれも、アイデアが「とんがっていた」からこその効果です。

IMG_4193

次回は、図書館内部の設備について、書きたいと思います。

<武雄市図書館 operated by TSUTAYA 2は、コチラ> 
http://www.mikito.biz/archives/35932399.html