県立大野病院事件とは、2004年12月に双葉郡大熊町の福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死亡したことにつき、手術を執刀した同院産婦人科の医師加藤克彦被告が、業務上過失致死と医師法違反の容疑で2006年2月に逮捕、翌月に起訴された事件です。最終的に2008年、福島地方裁判所は、被告人の医師を無罪とする判決を言い渡し、確定しました。

この事件は、医師であれば誰でも知っている常識中の常識ですが、一般にはそれほど知られていない。というよりも、コトの重大さが認識されていないと思います。すなわち、組織体である公的病院、もっといえばそれを運営している福島県が、ひとりの医師個人を守らず、事件の調査を警察任せにし、医師個人を警察に突き出す形にしてしまったことです。これは、医師関係者に大きな衝撃を与え、当時各医師会が反対声明を出しました。同時に各医師、各研修医がそれぞれ、医療行為にあたって「逮捕リスク」ということを考えなければならないということを、初めて認識させられた事件でした。改めていいますが、医師の責任が議論になるときに、「県立大野病院」が話題にならないことはない、すなわちそこには、風評(というよりも、その事実ですが)により、医師にとって強力なネガティブイメージにがあるわけです。

<当時の日本医師会の見解>
http://www.med.or.jp/nichikara/fseimei/

私見では、以下の点が大事な点かと思っています。
・医師個人が、医療行為で刑事告発され、あまつさえ「逮捕」されたこと
・患者はケガをしている、もしくは病気等で弱っている状態で医師に診察されるのであって、通常の健康体ではない
・ヒトの体には未知の部分や個体差があり、すべてを科学的に把握できない
・医療ミスが顕在化してから、医師を責めるのは後出しジャンケンのようなもの
・医療行為自体が、(ヒトの体にメスを入れるということから)、刑事事件になじまない

これにより、医師や研修医が、逮捕リスクのある産婦人科を選好しなくなった、また福島県を就職先としてリスク回避するようになったという見方をされる方もいるそうです。医療ミスを防ぐためのペナルティの一つとして、刑事訴追制度があるのは理解しますが、そのことにより、医療現場の臨床医師(もしくは経営体としての病院として)がリスクの高い症例を受入れないというインセンティブが働いてしまうのは事実でしょう。

福島県は、これまで明確に誰でも(特に若い医師)に理解できるように、当時、医師個人を刑事訴追から守れなかったことを謝罪してきませんでした。もし、これが医師不足の遠因のひとつになっている可能性があるなら、いまからでも、今すぐにでも間違いを認めるべきだと思います。もしこのような事件が起きたなら、組織体として福島県が全責任を持って、患者に向かい合って責任をとる、と宣言しなければ、各医師がすでに持つ強力なネガティブイメージは払拭できません。

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出典: 福島県立大野病院HPより