小名浜芳浜にある、山菱水産様の本社・冷凍倉庫にお邪魔しました。いわきでも有数の冷凍水産加工業者で、その特徴は、冷凍マグロに特化しているところです。この本社と、小名浜倉庫の2カ所の超低温冷凍倉庫を持ち、その合計容量は1万トン近いそうです。

震災による津波で、主力工場の一つであった中之作工場が、被災し流されてしまったことを機に、こちらに新工場を建設することになったとのこと。建設コストは、冷凍機械を入れると数十億円。ここにおいて、中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業 、いわゆるグループ補助金制度が後押しになったそうです。

新倉庫の冷凍機械は、前川製作所の製品で、エアサイクルを用いた超低温領域(-50~-100℃)を創出する最新の冷凍システムです。従来のクーリングタワーによる冷却よりもランニングコストの点で優れているだけでなく、オゾン層破壊係数、地球温暖化係数ともにゼロの空気が冷媒のため、地球環境負荷はまったくありません。 超低温領域(-50~-100℃)において、従来の蒸気圧縮式フロン冷凍システムより、最大50パーセントの省エネ、CO2排出量削減が可能とのことです(出典:前川製作所HP)。デフロストの回数も少なくて済むとのこと。

47

山菱水産様HPによれば、取り扱い商品のうち過半が、まぐろ加工品・冷凍まぐろ品。どのように加工が行われるか工場・倉庫内を見学させて頂きました。まず驚いたのが、衛生管理の水準の高さです。
・本社建物に入館の際には、靴を脱ぐ(土を持ち込まない)
・食品加工場に入る際には、衛生防止・マスク・専用長靴着用
・エアシャワーで衣服のほこりをとり、さらにコロコロ(ガムテープ)で念入りに落とす
・殺菌プールで、長靴を消毒
・温水が出る手洗い場で30秒、専用洗剤でブラシを使って爪の先まで洗う(かなり念入りな洗浄マニュアル)
・加工種類・保管目的ごとに部屋に分かれていて、それぞれ違う温度管理がなされる
・部屋の仕切りの開け閉めは、直接手を触れさせず、センサーで開閉
(触れることによる、菌増殖を防ぐ)

大まかな流れは、一定の加工がなされた超低温状態のマグロサク→水で表面を洗う→不具合のある表面を切り取る→凍った状態のままスライスもしくはネギトロミンチ加工→パック包装やトレー状態で出荷、です(商品による)。

作業されている、職員の制服の背中には、大きな文字で名前が書いてあり、一目で誰が作業しているかわかります。超低温(-60℃)の冷凍倉庫の中も見学させて頂きました。寒いというより肌が痛くて、とても10分といられない環境です。倉庫作業員は完全防寒されたフォークリフト等で作業するのだそうです。なお、こちらは、保税倉庫扱いになっており、こちらに保管されている冷凍品は関税がかかっていない状態。出庫の際に、社内で通関に必要な書類を用意し、手続きを経て出庫作業となるそうです。

山菱水産の最大の特徴は、水産物の保管・加工・流通に至るまでを一社で完結するトータルなシステムということ。すなわち海外のマグロ生産者から買付けを行う際に、商社に丸投げせず、自社で輸入・通関を切り、保管も行います。ネギトロミンチ加工/スライス加工も社内で行い、スーパーや回転寿司チェーンへ出荷するわけです。通常であれば、この流れに何社も介在がなされるところ、山菱水産で完結するため、スピーディかつコスト的にも優位に立つことができるわけです。
 

<取扱いシェア(カテゴリー別)>

1.まぐろ加工品(ねぎとろ・スライス)・・・45%

2.冷凍まぐろ類(ブロック・サク)・・・35%

3.鮮魚・鮮凍品(カツオ・サンマ・他)・・・20%

取り扱いシェア円グラフ

出典:山菱水産様HPより転載

各生活協同組合様へ出荷予定のネギトロ製品を見せて頂きました。真空パック詰めされ、生産者には、しっかりといわき市の「山菱水産」の名前が刻印されていました。
 
15

世界から直送された冷凍マグロは、現地で凍結され日本へ運ばれてきます(例えば空輸)。ただ、で釣られたマグロは通常、暴れるのでその直後のマグロの体温は30℃を超えることもあるそうです。では商品価値を下げないためにどうすればいいのか。冷凍を一度に限ること(ワンフローズン)※など仕入れ、加工、流通までのすべてを行えば、その水準を保つことができると考えたそうです。

※ワンフローズン マグロなどを冷凍保存する際、冷凍を複数回せずに、一度だけにとどめることでおいしさを保つ手法。解凍や冷凍を繰り返すと細胞膜が壊れてしまうため、味や鮮度が落ちることにつながる。
 
言うは易し、行うは難し。取引業者を含め、説得に相当の時間と工数がかかったことは想像に難くありません。 その成果が着実にあがってきており、各生活協同組合や、回転寿司会社と安定した関係築いているようです。他社がちょっとやそっとのアイデアでマネのできるシステムでないことを、改めて感じました。