日本の漁業の実態と改善点について、諸外国の実例を紹介しながら何が問題でどうしたら解決できるかを紹介した本です。著者は、三重大学 生物資源学部の准教授で、日本及び水産資源の乱獲を懸念されている立場の方です。いわく、日本の漁業行政は大本営発表的な報道規制がされており、都合のよい情報は流れるが、都合の悪い情報は報道されない仕組みになっているとのこと。すなわち、日本の漁場が乱獲され水産業が厳しい状況に置かれていることが、十分に報道がされておらず、逆に健康志向からどんどん食べることが奨励されている、という訳です。後者はともかく、漁業者による「乱獲」という刺激的な表現は、水産物消費の低下・漁業の後継者不足・他国の違法操業といった表面的な問題意識しかなかった私にとって、目に鱗の内容でした。

それならば、養殖があるじゃないかと思っていましたが、養殖が確立しているのは、ほぼブリ類とマグロだけです。されに養殖するには、重量ベースで10倍近いエサが必要です。エサといってもそれはサバ等の魚ですから、結局のところ、さらに水産資源の消費を加速していることになりますし、実際、現段階では養殖が、経済的に成り立つ魚種は限られます。
 
問題点は2つ。①本質的な問題である「日本漁船による乱獲」がいまだに存在する事実。②それを長期的な国益の観点で自浄できない漁業関係者と行政、です。

著者は、資源管理が比較的うまく運用されている国(特に、ノルウェーとニュージーランド)の例や、水産資源に関する客観的な数値データを基にした分析と、それに基づく問題点の抽出、そして改善提案をしています。権威におもねず、批判を恐れない姿勢は、賞賛に値すると感じます。平易な文章で書いてあり、専門用語でごまかさない姿勢も良いです。
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著者による具体的な提案は、諸外国の様に、船ごとに漁獲枠を設定すれば、乱獲を防止し、水産資源が戻ると提案していることです。

問題点①
日本の漁業の衰退の原因は「日本漁船による乱獲」である。乱獲の原因は限りある水産資源に対して無策な水産行政である。ルールがない、もしくはルールがあっても強制力が伴わない。
1. 限りある水産資源
2. 獲った者勝ちの市場原理
3. 水産資源の枯渇
4. 漁業者による更なる資源の奪い合い
5. 日本の水産業の衰退
そして、5→1に戻るという負のスパイラルに陥っています。

問題点②
水産管理しないことは全体の不利益にもかかわらず、放置されてきた。
スーパーなどでよく耳にする「おさかな天国」をはじめ日本人全体あるいは若者・子供層の魚離れという刷り込みがなされてきました。しかしマスコミは、水産資源の減少に関して積極的に報道してきませんでした。
・日本海のクロマグロ産卵場での、未成魚マグロの乱獲(イワシやサバを取り尽くした大型巻き網船での乱獲)
・昭和前期に東シナ海でタイやグチを取り尽くした結果、今になっても魚が回復していないこと
・カナダニューファンドランド島でタラを取り尽くした結果、何年もの休漁期間を置いても、タラが回復しないこと
 
漁業者にとっても、現場感覚として魚が減っているような気がするが、ハンターの気質から、獲れるだけ獲る、同業者に負けないように獲る、魚が小さかろうとも同業者に獲られるくらいなら自分が獲る、ことから早い者勝ちで魚を取れるだけ取る、いわゆる乱獲をするインセンティブがあります。
 
政府は、これまで水産資源管理のデータ収集や、養殖技術の確立に奔走してきました。一方、最も量が多い天然魚の漁獲量制限に消極的でした。 
 
細かい論点ではありますが、漁獲量制限をしない結果、水揚げは一時期に集中してしまい、大きな不利益を生みます。まず、漁師にとっては、魚の価値(価格)が落ちます。大量に水揚げすると魚が痛みやすくなります。加工業者にとっては、水揚げが一時に集中し、加工設備投資が過剰になります。また作業の平準化ができず、ムダが人件費を抱えることになり、高コスト体質になってしまいます。消費者にとっては、余った魚は冷凍品に回されるので、生の魚を食べる機会が減ってしまいます。

筆者の提案は、漁業資源保護ための厳しい漁獲枠設定と競争的乱獲を防止して計画的操業(魚体の質向上により、単価アップにより収益増も見込める)を可能にする漁船ごとの漁獲枠設定です。これは、既にノルウェーやニュージーランドなどの漁業先進国で実施されている制度で、それらの国でも導入する前は漁業者側の抵抗がありました。しかし今では安定した漁業資源の保全と収益性のある産業としての漁業が実現されて漁業者も満足しているそうです。これまでの日本の漁業行政が必ずしも有効に機能してこなかったことは事実と受け止め、枯渇しつつある資源を無理やりに収獲する(未成魚の段階で獲らざるとえない)仕組みをまず認識し、漁獲を有効に制限する仕組みを構築ことで、漁業、そして日本全体の利益のためになってほしいと思います。