G1青松龍盛塾に参加しました。これは「志とビジネスマインドをもった政治家、パブリックリーダーを育てる」ことを目的とする勉強会です。塾の名前は幕末の維新の志士、藤田東湖、吉田松陰、坂本龍馬、西郷隆盛からとっています。対象は主に地方議員もしくはこれから政治を志す人で、明治維新の思想を題材に勉強して、現代の志士を育成し、地方から同時多発的に日本を変革しようとするものです。政治視点×ビジネス視点を持つため、グロービス経営大学院のクリティカルシンキング、ファシリテーション、マーケティング、組織とリーダーシップなどを学びます。

今回は1泊2日、東京のグロービス経営大学院で開催されました。第1回ということで、①歴史から学ぶリーダーの志、②クリティカルシンキングの基礎、③記念講演パネルディスカッション、④リーダーシップ概論、⑤ビジネスファッションの講義です。グロービスは休日にもかかわらず、多くの一般社会人が学びのために来校し、フリースペースで自主的なチームディスカッションをしていました。
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1. 歴史から学ぶリーダーの志  講師:林英臣先生
講師の林先生は、松下政経塾の第1期生です。同期の多くが国会議員等になっている中、自分の役割は思想家だとし、後進の育成に心血を注いでいらっしゃる方で、年間講演170回とのこと。特に明治維新時に活躍した志士の思想を、日本古来の考え方との共通項を捉え、原点確立・大局観察・本気集中・徹底継続の4つを重視されています。特に、政治学の原点は、種すなわち素志を持つこと。人生という大木は素志という種から根が生えて、初めて幹や枝葉という立志ができるというものです。この素志がない、もしくは忘れてしまうと、遠くを見据えることができなくなってしまいます。
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松下村塾では、たった2部屋18畳の寺子屋で、吉田松陰が教えた時期は2年に足らないそうです。そこから高杉晋作や伊藤博文等のきら星のような志士が育成されていったのは、長州藩校(明倫館)のように過去を教えたのではなく、未来を考えることを教えたからです。すなわちある事象が起きたとき自分ならどう考えるか、どう動くかを塾生に考えさせたからです。また「知行合一」、すなわち、知ったからには行動しなくてはならないと教えたからです。だからこそ吉田松陰は自らペリー艦隊へ密航を試み、また伊藤博文はせっかくの英国留学中に、英仏米蘭の4カ国艦隊の報復攻撃の報を聞き、直ちに留学を打ち切って帰国し、長州藩内を説得するという決断をします。その時点で何が大切なのか、どう行動すべきかを、失敗を恐れず自らが英断できる決断力を教えたわけです。

吉田松陰の高杉晋作宛の書簡には、「死して不朽に見込みあらば、いつでも死ぬべし。生きて大業の見込みあらば、いつでも生くべし」というものがあります。この意味は、死んで自分が不滅の存在になる見込みがあるのなら、いつでも死ぬ道を選ぶべきです。また、生きて、自分が国家の大業をやり遂げることができるという見込みがあるのなら、いつでも生きる道を選ぶべきです。生きるとか死ぬとか…、それは『かたち』にすぎないのであって、そのようなことにこだわるべきではありません、という意味です。逃げの小五郎と呼ばれた高杉晋作の行動の底には、死や後生に対する深い認識があったのだと思います。

2. クリティカルシンキングの基礎 講師:田久保善彦先生
クリティカルシンキングはビジネススクールでもしばしば取り上げられるテーマです。今回は主に問題解決力とコミュニケーション力を主眼として、ある製品の販売てこ入れを題材に、各チームにアイデア出しをするというロールプレイをしながら、よりよい考え方についてアドバイスをいただきました。

・ホワイトボードにアイデアを書き出し、メンバーと共有する
・他人のアイデアを評価しない
・似たアイデアを遠慮せずに出す 等

大事なのは、問題解決にあたって全体像(枠組み)をつかみ、問題を分解し、深く考えること(解釈)するというステップです。1.枠組み 2.分解 3.解釈を行うことにより、モレや重複をなくす(いわゆるMECE:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)ことができるわけです。ただ言うはやすし行うは難しい。全体像の枠組みをつかみ、問題点を分解するというのは、高い視点を持ち、かつ本気になって頭を絞らないとできません。その練習は、新聞記事を読み、その記事の意図、効果、自分の生活にどう影響するかを考えることだそうです。またこの分解という作業にあたっては、それぞれのステークホルダーの立場で考えるという視点もいただき、これは有用だと思いました。

3. パネルディスカッション パネラー:千葉市長 熊谷俊人氏、ワークスアプリケーションズCEO 牧野正幸氏、グロービス経営大学院学長 堀義人氏

33才の千葉市長 熊谷俊人氏とワークスアプリケーション代表の牧野氏、グロービスの堀代表とのパネルディスカッション。今起きている、IT投資を例に具体的な事柄をどのように経営トップが捉え、深く考え、リスクをとっているかの一端を垣間見ることができました。
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現在千葉市では、千葉レポというシステムをマイクロソフトと共同開発・運用中だそうです。これは市民が自分の携帯電話等から、市内の道路用補修箇所の状態を、写真付きレポートとしてWeb上へ投稿し、市へ報告するというものです(GPS機能付なので位置情報も同時通報)。市はその通報を受けて補修の要否を判断し、そのステータス(未補修・補修手配中・補修済等)が画面上でわかる仕組みです。
<千葉レポは、コチラ>
http://www.city.chiba.jp/shimin/shimin/kocho/chibarepo.html

これの要諦は、市民と市との協働による問題の解決になっていることです。いわゆる「すぐやる課」と異なるのは、補修等を「すぐやらないこと」だそうです。熊谷市長いわく、すぐ対応するのではコストが多大にかかってしまう。不具合のステータスを市民と共有することがシステムの目的で、将来的にはいくら補修にコストがかかるか、いいかえれば市民の税金が当該工事箇所に投入されたか、誰でもわかるようにしたいとのことです。それにより、市民みずから「行政に補修を依頼すると、そんなに血税が投入されてしまう」ということを啓蒙したいとのこと。そのことが住民共同体意識を高めることに資するとのお考えです。仕組みはIT導入ですが、その目的は、住民の共同体意識付けという深謀遠慮です。

このシステム開発にはマイクロソフトが担当し、千葉市が実証実験に強力するかわりに無償でソフトの提供を受けるというスキームを熊谷市長が提案し実現したそうです。マイクロソフトは、ソフト開発に協力しますが、ノウハウが蓄積でき、ソフト開発完了の暁には、全国の自治体に当該システムを販売することができるというメリットがあります。一方、千葉市は、無償でソフト提供を受けられますが、職員を多数常駐させその人件費負担があります。またそもそもソフト開発が失敗した場合、何も得られない可能性もあり、それらのリスクを理解し、背負った上で、マイクロソフトとの提携を決めたそうです。

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ワークスアプリケーションズ様は、地方公共団体の人事管理システムで大きなシェアを持つ、大手システムベンダー以外の会社としては、希有な存在です。今回の大震災で、どんなに堅固や集中型システムであっても脆弱性が露見したので、今後は分散型・クラウド型が主流になるだろうとの見方です。データを一カ所に厳重に集中管理するのは一見、信頼性が高そうに見えるが、かえって脆弱だというのが持論です。要は、リスクとそれに見合ったベネフィットが得られるかどうか、です。その例として、社内サーバーのセキュリティレベルの話をされました。24時間365日100%信頼性の社内サーバー構築に10億円かけるより、1年間のうち2時間ダウンしてしまう社内サーバーが1億円でできるなら、間違いなくCEOの責任で後者を選択する、とおっしゃっていました。要はトップマネジメントが、リスクとそれに見合ったベネフィットを理解し、責任を全て背負えるかどうかということと理解しました。
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4. リーダーシップ概論 講師:朝比奈一郎先生
朝比奈一郎先生は、東京大学法学部卒業、ハーバードのケネディスクール修了の秀才。経済産業省を課長補佐で退職し、青山社中株式会社を設立された方です。
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 リーダーとマネージャーとの違いについて、いろいろな研究結果を話されました。その中でも琴線に響いたのは、リーダーは生まれながらのものでなく、後天的なものが多いということです。1. Lead the self(まず自分で行動する) 2. Lead the People(フォロワーがついてくる) 3. Lead the Society(社会が変わってくる)ということを、桃太郎と東京オリンピックを例に出し、納得です。
桃太郎:桃太郎が鬼退治に行く→猿やキジが仲間に加わる→鬼退治に成功し、安心社会が実現する
東京オリンピック:石原都知事が1度提案に失敗しても、孤軍奮闘する→2回目にはうまいプレゼンチームを編成することができた→東京に開催が決定すると日本中がお祭り騒ぎになった
 
リーダーの種類にはAppointed Leader(組織等から任命), Elected Leader(選挙で選出), Emergent Leader(自然発生)があり、 Elected Leaderの場合、選挙でのライバルが残っており、就任当初から敵がいる状態でマネジメントを始めなければいけないという、まさにどこかの自治体の現状を表しているかのようです。この処方箋も個人的に教えて頂き、良いおみやげになりました。

リーダーには説明責任・アカウンタビリティや遵法性が求められますが、その対比の例として、武雄市の樋渡市長が決断した、市立図書館の運営を民間のビデオレンタル業者TSUTAYAに任せる事例が紹介されました。図書館建設にあたり、TSUTAYA入居が前提なので、実質的な入札がなく、ほとんど特命発注で行ったものです。本来であれば既存ルールに則って一般競争入札し、市民に合理的・客観的説明を行うところですが、そんなことをしていたら市民の役に立つ図書館が建設できないと判断した樋渡市長は、市長の責任において合理的・客観的説明を乗り越えて、TSUTAYA仕様での建設発注に至ったそうです。来年2月には、私も武雄市の現地に行くことになっているので、その際に実際にご苦労された点等を見てこようと思います。