バーデンバーデンは、歴史をひもとけば、紀元前にローマ皇帝、シーザーがヨーロッパ遠征をした際に利用したとされ、またロシア皇帝やヨーロッパ貴族が保養のために利用したという、長い歴史を持つ温泉保養地です。ヨーロッパでは、自然に恵まれた健康保養地に滞在して、医療・療養に使うのが主流です。また最近では保養や健康維持・健康づくり(ウェルネス)、美容に用いる傾向があるそうです。ドイツでも、医師の指示、指導、処方により、健康保険の対象として行う伝統的な温泉療養が、今でも行われています。

ただ最近のトレンドは、やはりウェルネスで、リフレッシュや健康、美容への活用です。バーデンバーデンは古くからの温泉施設ですが、1980年前半に、医学的見地に立ちながらも楽しみの要素を取り入れたウェルネス施設「カラカラテルメ」がオープンしました。

しかし日本と異なるのは、ハード面の充実に加え、温泉療法のドクター・医療従事者・美容スタッフなど、それぞれの専門スタッフが駐在し、ソフト面の受入体制が充実していることです。ドイツでは温泉保養地をクアオルトと呼び、基本的に次の3つを備えているそうで、楽しみながら温泉保養するのが欧州流です。

1. クアハウス
憩いや社交場で、食事・ダンス・音楽会などを楽しむ建物です。カジノも含まれますが、いわゆる浴槽や治療施設はありません。温泉保養地の核となる施設で、コミュニティ(交流)センターの役割を持ちます。
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2. クアミッテル
浴槽・治療用浴槽・運動プール・マッサージ・理学療養施設を持つ、多目治療施設です。
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3. クアパルク 
文字通りの公園で、バーデンバーデンは町全体に、芝生・花壇・樹木・遊歩道が 整備され、森林浴をしながらゆっくりと静養し、リハビリ等をすることになります。公園内には、音楽堂等もあり、良い季節には頻繁にここでオペラや音楽会、コンサート等が開かれます。
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保養・温泉保養地の医学的効果は、温泉入浴の繰り返し、温泉地の自然環境、運動と栄養の3つの要素の組み合わせといわれ、総合的生体調整作用に働きかけることといわれています。
1. 温泉入浴の繰り返し
温泉成分に影響、体を温める効果、浮力・静水圧・摩擦抵抗等の影響
2. 温泉地の自然環境
転地による気分転換・リラックス、豊かな自然と機構の影響
3. 運動と栄養
温水プールでの歩行や水泳、散歩・ハイキング、バランスの取れた食事

これら3つの要素が、さまざまな刺激となって自律神経系、免疫系、内分泌系に作用し、生体リズムを調整します。生体が持っている自然治癒能力を高めることが総合的生体調整作用で、(直接的な近代西洋医学でなく)マイルドな刺激療法です。なお、ヨーロッパで温泉を医療として利用する場合は、科学的根拠に基づいた医療の見地から、7日間を1クールとし、14日、21日の滞在が目処になるそうです。ここらへんは日本古来の湯治が、1巡り7日といわれているのと、共通かもしれません。

バーデンバーデンを象徴するのは、カラカラテルメとフリードリヒ浴場です。カラカラテルメは900㎡を超える敷地に、プール、流水プール、ジェット水流、ジャグジー風呂、打たせ湯、サウナ、ハーブ吸入浴等の設備を有しているそうです。屋内の大プールはガラス張りで、太陽の光がさんさんと注ぎ、明るく開放的な雰囲気だそうです。サウナを除いて水着を着ての入浴です。
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フリードリヒ浴場は、裸ひとつでの入浴です。裸ひとつで、ドーム型のシックな大ホールの中にあるサウナやスチーム浴、温度や深さの異なるいくつもの浴槽を、順番に回ります。本来は、指定された順路で20種類近くある部屋&浴槽を、指定された順番・時間どおりに回ると3時間コースだそうです。ドームの壁画は荘厳なもので、重厚な印象を受けました。脱衣場は男女別なのですが、内部は共通なので、老若男女が裸ひとつで、同じ風呂に入るというのは、カルチャーショックでした。マーク・トウェインはフリードリッヒ浴場を称して「10分後に時間を忘れ、20分後には世界を忘れる」といったそうです。もっとも江戸時代の銭湯は、男女一緒だったそうですから、その意味では同じスタイルかもしれません。
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滞在型の温泉療養ということでは、日本の湯治と似た部分を感じました。大きく異なるのは、欧州の王侯貴族の保養からできたものと、日本の山奥の刀傷を癒やすための鄙びた秘湯との成り立ちの違いでしょうか。どちらがよいというわけではなく、それぞれの長所・短所があり、お互いをマネすればよいというものではありませんが、運営にあたって参考になる点は多いのではないかと思います。